【トレード】損切りが出来ない人へ⑤
このところ継続的に書いている内容って、基本的には初心者の方向けのものだと思います。
ここしばらくの間で、海外のヘッジファンドやFOF(ファンドオブファンズ)といったプロ中のプロの方たちとも話したりすることが増えた一方で、一般の個人投資家さんとも若干話す機会(講演)をいただいたり、ちょっと気になる記事などもあったので、「株(投資や運用)で人生狂わせた」なんて話をもう聞きたくないなと感じたこともあり、ごくごくつまらないこと、でも投資や運用をギャンブルにしないために、とても大切だと思っていることを書いています。
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投資対象商品によって、リスクは変わってくる。
自分の許容可能なリスクと、目指すべきリターンとのバランスの中でどういったものに投資し、リターンを上げていくかを考える。
でもそれってその商品を理解していることが前提になってしまう。
初心者の人にそれを適切に判断できるかどうかは確かに微妙。
それに自分が興味を持てない商品に取り組んでみても、それこそ成果は出せないだろう。
結局のところは、面白いと思うもの、興味をそそられるもの、それをやるのが本来は一番だと思う。
そのうえで、その商品のリスク特性を理解し、適切にコントロールする術を身につけていくこと。
ただレバレッジだけは、安易にかけないで欲しい。
もし初心者のあなたに
「元本以上に大きなポジションを取れるので、より大きな収益を目指せます」
ということだけを囁いてくる人がいたとしたら、その人を信頼してはいけないと思う。
レバレッジについては、実はプロ中のプロのはずの欧米のヘッジファンドなどでも大きな問題になり、巨大なファンドの閉鎖などの要因にもなっている。
本来ならば、変動率がそこまで高くはなく、より論理的・数学的なアプローチでリスク管理可能な債券を投資対象としたヘッジファンドなどでも、「レバレッジ」が破綻要因になった例は少なくない。
LTCM(ロング・ターム・キャピタル・マネジメント)もその一つだと思う。彼らはレラティブ・バリューという投資手法で割高な債券を売り、割安な債券を買うヘッジも効いた形の運用をしていた。しかし、多くの市場参加者が同じようなポジションを取っていた中で、ロシア危機を契機にアンワインド(ポジション・クローズ)の動きが広がる。そのときに彼らがかけていた数十倍というレバレッジが、彼ら自身を追い込むことになったと理解している。
同じ方向に偏ったポジションになっていた人たちが反対売買を行えば、評価損が広がっていく。そしてマージン・コール(追証)がかかり、彼ら自身がポジションを現金化する必要に迫られて反対売買を行う。それがさらに評価損を広げていく。そして危機的な状況にあるときに「落ちるナイフ」を拾いにいくような投資家は少なく、市場の流動性も枯渇する。そして破綻へと追い込まれた(おそらくあと数ヶ月耐えられれば回復できたはずだが、そうばに「たられば」は無意味)。
当時、市場を席捲していたソロモン・ブラザーズで活躍していたジョン・メリウェザーと、オプションのプライシングモデルであるブラック・ショールズモデルを考案したマイロン・ショールズ、ロバート・マートンを擁したドリームチームであったLTCM。
計算上はそんなことが起きる可能性はほとんどなかったと考えていただろう。でも統計データは所詮は過去のもの。何十年に一回、百年に一回と言われるようなことが、この市場では結構何度も起きている。VaRが信奉されていたこの時代にテール・リスクなんかが話題になったのも、このあたりからだったかな。
商品市場で破綻したアマランスも、LTCMほどではなかったが、かなり高いレバレッジをかけていた。
リーマン・ショックのときに、市場を襲った危機的状況も、様々な場所でかけられていたレバレッジがそれを加速させ、危機に陥らせた。
それを抑制させようとしたのが、その後定められたドット・フランク法、ボルカー・ルールだったりする(外資系証券などが自己売買を大きく規制されてしまった規制)。
プロ中のプロ。ものすごく頭がいい人たちですら陥った罠。それが「レバレッジ」でもある。
自分の資産状況や、リスク許容度を把握し、適切なリスク管理が出来ない人…つまり損切りができないような人が使ったら、それは人生を大きく変えてしまう原因になりえる代物だ。
レバレッジを活用するのであれば、まずはリスクと向き合う姿勢をしっかり持てるようになること。
まずはそこから始めて欲しい。