【トレード】守るべきもの
だいぶ悩んだんですが、こんな出来事が繰り返されてほしくないという思いから、あえて書くことにしました。
昨日、金融庁から出された「課徴金納付命令」が話題になっていました。
過去最高額ということで特に注目を集めたようです。
ちなみにこの取引は平成25年9月に発生しています。
日東電工株式会社株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の決定について
この事案については、リアルタイムで見ていた市場関係者はたくさんいるでしょう。
商いの詳細もここには記されています。
「だいぶ悩んだ」のは、実は当事者が自分にとっても友人であり、知人であったりしたためです。
すごくいいやつですし、相場への想いも強く、熱いものを持っている。
でもこの事案で何年も苦しむことになってしまった。
以前、起きたTOPIX先物を使った相場操縦行為事案についても、知り合いのディーラーでした。
彼も本当にすごく真面目でいいやつ。
心配になるほど痩せてすごく苦しんでいました。
そして共通するのはとても優秀な運用者であったということ。
「収益を上げるため」に貪欲に収益機会を追い求め、でも一線を越えてしまった(少なくとも当局はそう判断した)。
そこからすごく苦しんだと思うし、彼らも早く忘れたいことだろうから、友人としてこの件を取り上げることにはすごくためらいがありました。
嫌われてしまうかもしれないなとも思います。
でも、これからも優秀で、沢山の可能性を持った運用者が、同じようなことに陥ってほしくはない。
なのであえて取り上げることにしました。
今回、問題になった一連の取引の背景には「引けギャラ(引値保証取引)」と言われる独特の売買があります。
ポートフォリオを維持しなければならない状況で、どうしても一定数量の株券を確保しなければならない場合があったりすると、なんとかそれを集めるためにこういった条件を提示してまで対応する市場参加者がいたりします。
近年では、概ねインデックス運用に伴う銘柄入れ替えなどの場合に限定されることが多いですが、一昔前は結構よく使われたりもしていました。
特に指数銘柄入れ替えにおいては、入れ替え時に適用される株価が「引値」であることが一般的なため、「引けギャラ」を提示する側にとっても、引値で株数集められるならインデックス連動が維持されて、トラッキングエラーも起きないので、そういった要請になってしまう場合が起こりがちです。指数連動型で現物株を保有している市場参加者は、裁定業者、ETFなどの投資信託などで指数連動型運用をしているところが主になります。
「この銘柄について、これだけの株数を確保したいので、引値でその株数を買うから売ってくれ」といった約束を予めするものです(立会い外であるToSTNeTとかでクロスが振られる)。
ただ受ける側も手持ちでその株券を保有しているわけではない場合が多く、「買いヘッジ」という形で市場で株券を買い集める必要があったりします。
で、約束としては「引値」でその株券を売り渡すわけですから、買い集めた株券の調達に要した平均株価に比べて、引値を少しでも高く持っていければその差額が利益になる。
当然、市場で買い集める側も、そのプロセスでは価格変動リスクを背負うわけだし、取引執行にもコストがかかります。だから一定程度は上に持っていけないと割が合わないとなる。
そういった特殊な状況があるため、引値操作や相場操縦行為につながりやすいものになる。
自主規制法人から下記のようなガイドラインが出されています。
ちなみにこのガイドラインは平成20年に出されているものです。
今回は、「引けギャラ」が背景にありましたが、このガイドラインに従うと「引けの15分前」からの買い上がり行為などについて十分な配慮を求めています。
通常の取引においても、その時間帯は十分に留意して取引を行うようにするべきでしょう。
だいぶ昔の話になりますが、ETF絡みの引けギャラの取引で処分が出た事例です。
日興ソロモン・スミス・バーニー・リミテッドに対する 検査結果に基づく勧告について
概ね規制というのは、具体的な線が引かれていることはありません。
どこまでがダメで、ここからがセーフなんて分かりやすいものではないんです。
これまで大丈夫と思っていたことが、ダメといわれるリスクだってあります。
収益機会を貪欲に追い求めていく姿勢。
これ自体は優秀な運用者であるために必要なことでもあります。
でもたった一つの出来事で、ものすごく傷つき苦しんでしまうこともある。
それぞれの可能性がそんなことで潰されてしまうことがないように、過去の処分事例や問題などについてもしっかりと目を向けて、守るべきルールやコンプライアンスについても意識を高めていて欲しいと思います。
個人投資家の処分事例も少なからずあります。
ぜひ一度そういったものを見てみてください。
最近、よく聞かれるのが
「HFTやアルゴリズム取引なら許されて、人間がやると捕まるなんて不公平だ。」
という意見。
そう感じてしまうことも沢山あるのでしょう。
ただ遅ればせながらHFTへの規制も強化されつつあるし、実際に処分が出たりもしています。
取引所でも監視を強化し、悪質な取り消し行為を行うHFTを見つけ出す努力もしています。
まだ公平であると感じるには十分ではないかもしれませんが、「やつらがやっているから、俺もやった」という論理は通用しません。
不満も理解できますが、客観的にみて悪質と思う行為を自分が行ってしまえば、自分も悪質な運用者になってしまうのですから。
相場が大好きで、収益を上げられるようになりたいと懸命に頑張っていて、沢山の可能性を持っている。
そんな未来ある運用者が、そんな事態に陥ってしまう姿はもう見たくないので。
みんなの未来を守るためにも、こういったことへの理解やルールを遵守することってとても大切なことなのですから。