【ビジネス】運用の仕事…③ディーラー(プロップ・トレーダー)
最後に自分自身が属している業界。
『ディーラー』という仕事についてです。
ディーラーが一番勢いがあったのは2005年、2006年の株ブームの頃だったしょうか。
2000年ちょっと前ぐらいから、成功報酬制度が導入されるようになりました。
それまでは年に10億円稼いでもボーナス100万とかに過ぎなかったのが、欧米のヘッジファンドに倣って20%前後の報酬をつけてもらえるようになった。
そしてディーラーの所得がどんどん上がっていったのが2000年代前半。
当時、長者番付が公表されていて、その地方版みると地域別トップテンとかに各社のディーラーが顔を出していることもあったぐらいです。
株ブームの頃は、銀座や六本木での派手な豪遊振りが週刊誌に取り上げられたり、我が世の春を謳歌していた時代もありました。
当時、日経平均先物の手口上位には、地場証券がズラリと並んでいた。
強い派生商品ディーラーがいた会社はこんなところ。
アイザワ証券(自分はここでやっていました)、安藤証券、岡三証券、アーク証券…etc。
そのちょっと前の時代に引っ張っていたのは極東証券でした。
同社にいたS氏が、地場証券ディーラー出身者では、シンガポールに渡りヘッジファンドを立ち上げた先駆けになりました。
現物株が強いところもまた別に何社もあった。
豊証券、山丸証券、岩井コスモ証券、赤木屋証券、十字屋証券、光証券…etc。
一社で月に10億、20億の利益が上がった時期もあったと思います。
まさに全盛期ですね。
ただ我が世の春を謳歌していたその頃に、将来『絶滅危惧種』と揶揄されることになる要因はすでに育っていました。
欧米で発達しつつあったHFT(超高頻度売買)です。
彼らが欧米市場で最大の市場シェアを誇ったのは2008年~2009年にかけてのこと。
最大で、米国で70%弱、欧州で60%弱の市場シェアを持つようになっていました。
日本市場に彼らが雪崩れ込んできたのは2010年から。
アローヘッド稼働によって、一気に環境が整備されて彼らが参入してきたのです。
そしてディーラーは『絶滅危惧種』となりました。
先に名前を挙げた地場証券で、ディーリングから撤退した会社や廃業した会社は過半に上ります。
でもそこに追い込まれてしまった理由を
『アローヘッドのせい、HFTのせい』
と言っている限り、絶滅していく運命を変えることはできないでしょう。
2000年代後半に欧米市場で起きていることをしっかりと勉強していれば、2010年以降に日本市場に何が起きるかは容易に想像できたはず。
そういった研究努力を怠ってきた。
どこもかしこも日計りに依存し、多様な手法による収益性の確保を怠ってきた。
管理も楽な手法、ディーラーもそんなに色々と調べなくても済む方法。
今までこれで稼げてきたんだから、それでいいじゃんと楽観し、そこに胡坐をかいてしまっていた。
優秀なディーラーを取り合い、成功報酬率を引き上げまくった結果、損失やコストへの経営上の許容度が著しく下がり、新しいことへの取り組みもできなくなり、ちょっと損が出ただけでも売買に制約をかけざるをえなくなってしまった。
ディーラーが売買をするためには、様々なコストがかかります。管理部門やバックオフィスの人件費、発注端末コスト、情報端末コスト、そして何より損失を出してしまったディーラーの損は会社が被ることになる。
結果、全員が儲かるような相場じゃないとディーリングビジネスは成り立たなくなってしまった。
各社で「損を出すな」ばかりをマネジメントが言うようになり、リスクを圧縮されたディーラーは稼げなくなり、リターンも減ってしまった。
どんなに報酬率が高くても、取れるリスクが減ってしまって収益自体が減ってしまえば何の意味もない。
中長期的にみれば会社にとってもディーラー個人にとっても、いいことが一つもない。
ディーラーの報酬率は、今では40%程度が一般的です。
一部の会社では50%以上もあるかもしれません。
でも会社にとって収益部門であり続けなければ、部門閉鎖や撤退、廃業に繋がっていってしまう。
契約化が進んだ結果、人材も流動化し、会社から見ても育てても他社に簡単に引き抜かれてしまうから、人を育てることもしなくなった。
本でも書いたんですが、設備投資も、人材育成も、研究開発もしない企業・業界に投資したいと思いますか?
絶滅危惧種になるだけの理由がそこにはあるのです。
まぁボロクソ書いちゃいましたが、自分はそこにいて、その流れを変えていきたいと懸命に足掻いています。
若い世代を育てること(これはディーリング業界のみならず、運用業界全体に必要なことだと考えています)。
そして新しいことへのチャレンジも続けていく。
一人ひとりのディーラーの可能性を最大化するための努力をマネジメントとしてもしていきたい。
先に挙げた生き残った証券会社の中でも、未経験者や個人投資家にディーラーとしての道を拓き、育成をしっかりやってこられたリスペクトすべき存在もあります。
ウチは後発ではありますが、ようやく胸を張れるディーリング組織になったと思っています。
多くの会社が縮小・撤退を続けている業界ですし、一時は2800人程度はいると言われたディーラーも、今では500人を切っているでしょう。一部の人と話すと300人台ぐらいまで落ちているのではないかと思います。
今さら地場証券同士で足引っ張りあってる場合じゃない状況ですよね(笑)
だからこそ取引所さん主催の業界関係者向けセミナーでお話をさせていただいたりもしてきました。
「ディーラーなんてオワコンだよね。」
というようなコメントをある相場解説者にぶつけられたこともあります。
個人投資家にも、ディーラーなんかに未来はないし、興味はないと言いきられる方もいます。
でも、ちゃんと新しい在り方を模索し、道を切り拓こうとしている存在もあるのだということは知っておいて欲しいと思います。
個人投資家の知人・友人にも、ヘッジファンドや運用会社の知人・友人にも、素晴らしい運用者はいて、尊敬もしています。
でもディーラーにも素晴らしい運用者がいますし、育ってもいます。
ちょっと自分が所属している業界のせいか、『想い』が先走って書いてますね(^^;
少し気持ちを落ち着けて(笑)
ディーラーの雇用形態はだいたい三パターンです。
・正社員ディーラー
1990年代まではこれが主流でした。ただ報酬率が高騰するに従い、他部門の従業員との格差が問題視されるようになり、多くが契約へと移行していきました。それでも正社員で頑張っているディーラー(会社によっては正社員のみとしているところもある)もいます。報酬率もなんだかんだとだいぶよくなっていて、契約ディーラーほどではないけれど、それなりの報酬率をもらえるようにはなっています。損失については、基本的に会社が負担します。
・基本給がある契約ディーラー
基本給は会社によって違いはありますが、月給10万円~30万円程度かな。報酬率も違いはあるけれど40%程度が一般的でしょうか。損失については、会社が負担するところがほとんどだと思います。一部、個人で負担しなければいけないところもあるかもしれません。
・完全歩合制の契約ディーラー
報酬率は最も高く、過半を報酬としている会社もあるようです。ただそういった場合、多くが損失が出た場合には、ディーラーの個人負担としているようです。
ディーラーの場合、報酬率が高くても、その所得には税金がかかってきます。キャピタルゲイン課税とはだいぶ税率も違ってくるので、実際の手取りは個人投資家に比べればかなり減ってしまいます。損失負担を強いられる契約形態であるならば、自己資金を貯めた時点で個人投資家になろうと思ってもおかしくはないですよね。
でも個人では難しいぐらいの運用枠は比較的容易に与えてもらえると思います。自分が働いて原資を貯めて…と考えると、そこには雲泥の差があります。今のポジション枠と同じ金額をすぐに個人でやれる人は少ないでしょう。そういう意味では、規模のメリットは個人に比べればある。ただ所属する証券会社の資金力や資本力にもよってくるため、ファンドマネージャーほどではない。
一方で、証券ディーラーの報酬率は「他人のお金を預かって運用する仕事」としては、世界的にみて異常だということは自覚しておいた方がいいかもしれません。ファンドビジネス界隈や、同じようなプロップやっていたも外資系やジャンルが違うだけで「40%」というと目を丸くして驚かれます(笑)自分たちの常識が、世間一般的には非常識なんだという理解がないと、一歩外に出たときにエライ苦労をするかもしれませんから。
運用については、会社によってびっくりするほど違いがあります。
対象商品も、派生商品が出来ない会社もあれば、個別株式を少なくしている会社もある。この辺は、リスクへの理解度や対応力、資金力などといったものによっても変わってきます。リスク許容度も各社各様。
ただ様々な投資家への説明責任や対応が求められるファンドマネージャーに比べれば、はるかに楽ではあります。経営と上司(部長)の理解があれば、その範囲においては自由に出来る。目論見書に縛られることもない。
言い換えれば、会社や上司の影響をすごく受けやすい職種なのかもしれません。
撤退・縮小していった会社でも、マネジメントの理解不足からディーラーが稼げなくなったところも少なくないと自分は考えています。
もし、この世界に来るのであれば、ディーリング部門があればどこでもいいではなく、どこに入るかは結構重要なファクターでしょう。
自分としては選ばれる会社・組織になれるよう頑張るしかないですけど(笑)
運用規模や報酬や制約など、様々な観点からみて、ディーラーは個人投資家とファンドマネージャーの中間に位置している存在といってもいいかもしれません。
あと付け加えると外資系証券や大手証券、銀行系証券といったところでの自己売買部門があります。
これもまただいぶカラーが違う。そもそも同じ自己売買でも呼び方から違います(笑)
「ディーリング」ではなく、「プロップ・トレーディング」。
運用資産額は日系地場証券の比ではありません。どちらかというとファンドに近い運用規模。
ただし報酬率は一桁台とかなり低い。
最大の問題は、ドット・フランク法・ボルカールールの影響で、そういった国際的なビジネスを行う金融機関の自己売買部門が大きく制約を受けてしまったということです。
表向き(?)はそういった会社ではプロップ・トレーディング(ディーリング)は行われなくなっています。
ほとんどが閉鎖したり、ファンド化して外に出したり。
内部的に行われている自己運用はファシリテーションと言われる顧客向けのためのポジション運用だったりします。
まぁ一部形を変えて、自己売買やっているところもなくはないですが(笑)
どちらにせよ、そういった規模の証券会社で、純粋に相場観でトレードさせてもらえる立場になるのは、ほぼ無理と言っていいぐらい、非常に狭き門になっているのが現状でしょう。
この「運用の仕事」シリーズだけで終わりにしますから、ちょっとだけ宣伝させておいてくださいね。
出版社さんへの義理もあるので(笑)
先日発売された自分が書いた書籍のKindle版が発売されているようです。
「株式ディーラー」プロの実践教本 百戦錬磨のディーリング部長が伝授する Kindle版
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