【ビジネス】運用の仕事…②ファンドマネージャー
「ファンドマネージャー」
と一言で言っても、それはもうムチャクチャ色んな方がいて、色んな違いがあります。
大きな意味では、「他人の資金を預かる仕組みを元に運用を仕事として行っている人」になるのでしょう。
もう少し詳細をみていくと、運用する資金がどういったストラクチャー(仕組み)によるかでだいぶ違いが出てきます。
「投資信託」…国内金融機関系投資信託や独立系投資信託、外資系の投資信託などによっても違いはあると思いますが、幅広く投資家から資金を集めて資産運用業務を行います。ひふみで有名なレオスキャピタルさんなど、ここ数年独立系で非常に素晴らしいパフォーマンスを上げて、資金を沢山集められているところも増えていますね。
どういった会社で運用するか、そして投資信託自体の内容によって運用の在り方は変わってきます。あくまで投資信託には目論見書があり、その前提で運用をしなければならない。インデックス連動型のパッシブ運用をするといっているのに、自分の好みで銘柄選別なんてするわけにはいきませんから。
あくまで投資・運用指針を示し、それを元に投資家からお金を集めているという前提があります。なのでファンドマネージャーといっても、その運用の在り方は様々なのです。
運用資産額自体は総じて大きなものになります。数十億~数千億といったところでしょうか。ただ個人の判断で好きに投資できるかというと、おそらくほとんどの場合はチーム運用であり、組織の中の一員として投資判断に関わっていくということになるのではないでしょうか?
「ヘッジファンド」…最近は「PM(ポートフォリオ・マネージャー)」という言い方の方が多いかもしれません。ヘッジファンドも広義では投資信託と同じです。投資家から資金を集め、それを運用する。OM(Offering Memorandum=目論見書)に定めた運用指針に従う必要もあります。ただ「マルチストラテジー」という表記があったりすると、端的にいっちゃうと「ウチは何でもやりますよ」と定めることも出来てしまう(笑) もちろんその分、販売においては難易度が上がったりはしてしまいますが…。アクティブな国内投資信託以上に、アクティブな運用をしているのがヘッジファンドというイメージがあります。
それ以外にも年金、企業の資産運用部門なども、意味合いは違ってきますが「ファンド(資金)」を「マネジメントする」という意味では、ファンドマネージャーと称する場合もあるようです。
ただそういった組織で、運よくそこに配属されるかどうかは…かなり難しいとは思いますが(^^;
お会いした方々の名刺に「ファンドマネージャー」と記載されていても、本当にすごく色んな人がいました。
サラリーマン的なファンドマネージャーから、自分でヘッジファンドを立ち上げ、アクティブに運用している方、「ファンドマネージャー」と一言で言っても、所属している組織や運用資金によって様々なんです。
運用の自由度は、個人投資家に比べればはるかに低く、制約が多い中での運用になります。
ただし運用資産の規模は非常に大きなものになる。
運用成果に対する成功報酬もピンキリです。
0%~30%程度まででしょうか。
ヘッジファンド業界のかつての常識は「マネジメントフィー2%、パフォーマンスフィー20%(Two Twenty)」でした(マネジメントフィー=運用管理報酬、パフォーマンスフィー=運用成果報酬)。それは最近では通用しなくなっていると言われています。最近では「1.5%、15%(①)」ぐらいでもヨシ、下手するともっと低い場合もあります。
それではスタートアップの運用資産額が数十億と少ないヘッジファンドでは経営はかなりキツくなってしまいます。人件費、オフィスのコスト、情報端末コスト、ローファーム、コンプライアンス、アドミニストレーター、トラスティ…など、ファンドの運用には様々なコストがかかってきますから。
しかも、実際にファンドマネージャー自身が受け取る報酬は、会社によりけりですが、その数字から会社側の取り分などを一定額引いた場合であることが多いようです。そうなると個人が受け取れる成功報酬は数%といったところもあります。そこからまた個人としては税金を引かれるわけですから、個人投資家の手取り比率の大きさを考えると比較にならないかもしれません。そういったこともあって、個人所得税がかなり高い日本を嫌い、香港やシンガポールといった国でビジネスを始める運用者が多いということもいえます。
まぁそれでも運用成果に自信があるヘッジファンドなんかは、平均値以上に大きな成果報酬を投資家に求めているところあります。要は売れるだけの実績の裏付けがあればという話なのかもしれませんけど(^^;
報酬が大きくなるかどうかの最大のポイントは運用資産額の大きさになってくるかと思います。
例えば1000億円までAUM(運用資産額)が増えたらどうでしょうか?
①の例でもマネジメントフィーで年に15億円、20%のリターンを出せたとして27.75億円の報酬が入ってきます。これはファンド・会社としての収入ですので、それが全部個人に帰属することはないでしょうが、もし一人でこれだけの運用規模と成果が出せれば、年にそれぐらいにはなるということです。
一つここで気をつけておいて欲しいのは、マネジメントフィーは、パフォーマンスフィーの先取りになるということです。1.5%の管理報酬をもらったら、ファンドの成績としては▲1.5%からのスタートになる。なので運用自体は20%のリターンを見た目で取れていたとしても、実際のファンドのリターンは18.5%という計算になります。
2004年に長者番付1位となったタワー投資顧問の運用責任者であった清原氏個人の年収は実に100億円だったといいますから、すごい話です。同氏がサラリーマンであったという面ばかり言われますが、ファンドのマネジメントを担っていたという意味ではサラリーマンというよりは、ファンドマネージャーと考えるべきでしょう。
運用会社に属し、職業として運用を行ったうえで、そういった可能性もあるのがこっちの世界といえるでしょう。
ただなりたいから簡単になれるという世界でもなかったりします。特に近年ではかなり狭き門になっている印象があります。さらにそこまで成功出来る人はごくわずか(特に日本では)です。
一方で、その「規模の拡大」が大きな目標となる以上、大きな運用資産額を回せるだけの運用スキルやストラテジーが必要になります。
(HFTでもない限り)「日計り」でそんなことはまず無理でしょう。
自分も現役時代にヘッジファンドを立ち上げにいったことがあります(日本国内でというちょっとレアケース)。
そのときは先物での短期売買を中心にしていましたが、安定的な利回りとして20%前後を意識するなら、最盛期の自分でも(一人でやるなら)50億円ぐらいまでが限界と思っていました。そのために当時信頼できる友人やライバルであった運用者と一緒にやろうという選択をしました。
短期売買だと取引コストと流動性がネックになってきます。それこそ海外から運用するなら、レイテンシー(≒執行速度)という壁もあります。
過度に大きな運用資産規模になった状態で、短期売買でリターンを取りにいくと相場への影響も過度なものとなり、執行するのが困難になったうえに、コンプライアンス上のリスクも高くなります。委託になれば執行コストは通常高くなりますし、短期売買だとそれだけ回転率が上がるため、その執行コストが収益圧迫要因にもつながります。短期売買でファンド運用を目指すなら、相当なハードルを越えていかない限り、規模の限界点は低いと考えるべきでしょう。
また日本国内のみを運用対象とし、一定の制限の下で、ある特定のファンドや投資信託に極端にお金が集中すると、大型株ならいざ知らず、中小型株ファンド(投信)などではかなり歪みが生じさせる危険もあります。割高な水準にあると分かっていても、お金が入り続けて、それに投資し続ければ、それは将来のリスクにつながっていってしまう。
ヘッジファンドによっては、ソフトクローズなどをしていったん募集と止めるというところもあるぐらいです。
規模は追いたくても、運用成果が公表されるものである以上、それを傷つけるリスクを負ってまでお金を集めることは避ける。
悩ましいところではありますが、賢明な選択なのだと思います。
将来、こっちの道で成功したいと考えるのであれば、運用手法・ストラテジーという面で、規模の拡大を追えるやり方をしっかり考えておく必要があるでしょう。個人としても、組織としても。
欧米で非常に大きな資産を運用しているヘッジファンドは「グローバル・マクロ」と呼ばれるアプローチが多い。
それ以外では「ロングショート」などでしょうか。特に日本株運用ヘッジファンドはかなりそれが多いと思います。
日本発の「グローバル・マクロ」はまだ非常に少ないのが現状です。
また投資家も、そこを見てきます。大きな資金を受託できるだけの運用能力があるのかどうか?運用資産額100億未満のヘッジファンドなんかは、特に欧米機関投資家からはなかなか相手にしてもらえません。小規模ヘッジファンドに投資してくれる層はファミリーオフィスだったり、比較的アクティブな投資家層に限られます。
また「シャープ・レシオ」を問われることも多いと思います。
個人投資家向け投資信託ならまだそこまで気にされる投資家も少ないかもしれませんが、ヘッジファンドは基本的には機関投資家向けに販売しています。
これは投資家保護のためのコストや様々な理由があるのですが、要するにヘッジファンドが受けている投資家の多くが機関投資家であり、プロの投資家なのです。そんな彼らは「利回り」だけでは投資してくれない。
シャープ・レシオが低い運用者では、規模の拡大は難しいでしょうし、投資対象としてすら見てもらえないかもしれません。
(ここではシャープ・レシオについての解説はしませんが、ネットでいくらでも拾える時代なのでご勘弁を)
先日、ヘッジファンドの情報を多く集めているユーリカヘッジさんとミーティングをしたときに教えていただき、「やっぱりそうだよな」と思ったことがありました。
「ヘッジファンドのAUMが大きくなればなるほど、利回りは落ちていきやすい。」
またあるFOF(ファンドオブファンズ)の方とミーティングしたときには
「ヘッジファンド設立後、3年過ぎるとパフォーマンスが落ちてくる場合が多い。」
と言われました。
規模の拡大を目指しつつ、運用利回り、シャープ・レシオをどう維持していくか?
これはどこにおいても難しい課題なのだと思います。
ちょっとだけ宣伝させておいてくださいね。
出版社さんへの義理もあるので(笑)
先日発売された自分が書いた書籍のKindle版が発売されているようです。
「株式ディーラー」プロの実践教本 百戦錬磨のディーリング部長が伝授する Kindle版
https://amzn.to/2sRwsZZ ;