【マーケット】外資系証券のポジション
先日、某ネット証券さん主催の個人投資家向けセミナーでお話する機会をいただいた。
たまたま本が出て、
たまたま東京にいたので、
せっかくだからといただいた機会だったんだけど。
色んな質問をいただいた中で、「某外資系証券の売りポジションは、あるメディアとつるんだ仕掛け的な売りポジションではないか?」といった趣旨のご質問をいただいた。
先物ではまだ手口が見えるので、それが様々な憶測や誤解を招いていることが多いようなので、業界関係者なら分かりきったことかもしれないけれど、ちょっと書いてみようと思う。
日系証券会社(特に中小地場証券)では、自己売買部門のことを「ディーリング」、その業務を行う人のことを「ディーラー」と呼ぶ。
外資系証券会社や大手・銀行系証券会社では「プロップ・トレーディング」、その業務を行う人のことを「プロップ・トレーダー」と呼ぶ。
どちらもやることは基本的に同じ。会社の資金を使って、マーケットでリスクを取り、収益を上げることが仕事の内容になる。「自分の判断で相場張って儲けなさい」っていうお仕事。規模は正直全然違うけれど。2000年代、外資系でも活発にプロップによる取引が行われていた頃、彼らと話していると運用額の違いには圧倒されたものだ。一方で、「成功報酬率の高さ」では我々中小地場証券が圧倒していたけど(笑)
※外資系プロップのほとんどは自分が知る限り一桁台。中小地場証券は40%程度になっていた。
かつてはそれぞれの会社で自己取引は活発に行われていた。
外資系証券のプロップ・トレーダー出身の人が、ヘッジファンドを立ち上げる動きなんかも活発にあった。
※当時、「トゥー・トゥエンティ(マネジメントフィー2%、パフォーマンスフィー20%)」であったヘッジファンドの成功報酬率は、外資系プロップにとっては魅力的であり、大きな運用額を回すことに長けている彼らは投資家のニーズにもマッチした。一方で、中小地場証券ディーラーにとっては、そんな大きな運用額を回した経験もないし、報酬率も大幅に下がるため、ごく一部の人(地場の枠では収まりきらなくなったような人)しかチャレンジしなかった。
2008年。
リーマン・ショックが起きる。
色んな大手外資系金融機関が危機に陥った。
AIGは政府管理下に置かれ、メリルリンチもバンク・オブ・アメリカに救済的な買収を受ける(現在はBank of America Merrill Lynch)。
モルガンスタンレーでさえ、三菱UFJ銀行からの支援・出資を仰ぐ事態に陥った(現在、モルガンスタンレーMUFG証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券などとややこしくなった経緯)。
並みいる国際的な大手金融機関が危機に陥ったことから、金融機関への規制強化の動きが強まった。
そしてドット・フランク法(ボルカールール)が制定される。
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ho/volcker.html
この「銀行が自らの資金(自己勘定)で自社の運用資産の効率を図るためにリスクを取って、金融商品を購入・売却また取得・処分をする事を禁止する。」規制によって、外資系証券や国際的な業務を行う金融機関は、自己勘定による取引を大きく制限されることとなった。
結果、外資系証券ではほぼすべてで「プロップ・トレーディング」は廃止されるか、ヘッジファンド化して外部化されていく。
現在、少なくとも表向きは「プロップ」はほぼゼロという状況になっており、「ファシリテーション・トレーディング」がほとんどという状況になっている。
ちなみにファシリテーション・トレーディングとは、顧客のために行う取引を意味する。
なので外資系証券の先物の売り手口が目立ったとしても、その会社が自己勘定で投機的目的を持ってポジションを取っていることはまずありえない。
その裏にいる顧客(ヘッジファンドやCTA、または機関投資家)が実際のポジションの主であると考えるべきだ。
確か2013年末だったと思うけど、株価が大きく上げていったときにブレバンハワードとか、グロ-バルな巨大ファンドの動きが注目されたこともあった。まぁ運用資産額が兆円規模になるグローバル・マクロ・ファンドが本気で動けば、マーケットにはかなり大きな影響が出ることは当たり前といえば当たり前のことなんだけれど。
ただその顧客も複数の証券会社をブローカーとして使い分けている場合が多く、昔と違って手口が読みづらくなっていることも知っておいた方がいい。「手口」が持つ意味はかつてに比べればだいぶ小さくなってきている。
一方で、
経験も、お金もない若い世代が運用の世界にチャレンジしたいと思っても、昔と違ってそれをやらせてくれる場所(自己売買部門)が極端に少なくなっているのが現状だ。
運用者の平均年齢も上がる一方だったと思う。
本来ならば、ドット・フランク法の影響を受けないような我々中小地場証券といったところが、そういった役割を担ってもいいはずなのだけれど、残念ながら我々の業界も大幅にシュリンクし続けてきたのが2010年以降の流れだ。
投資家のお金を預かっているファンドでは、なかなか未経験者に経験としてリスクを取らせることは困難だ。
個人が運用の世界で目指すものは、「個人投資家として成功すること」が主となってしまっている。
自分としては、なんとかその流れに抗い、若い世代がプロの運用者として育つ環境を作ること、そしてその未来を切り拓くことに取り組んでいきたいと思っている。
新しい世代の運用者達が次々と生まれ、いずれ世界で通用するような運用者が日本から生まれたら、それはとてもエキサイティングなことだと思う。
自分にはその畑を耕すことぐらいしかしてやれないけれど。
ちょっと話が逸れちゃったけど、自己売買部門の取引はそういった状況にある。
だから米系大手証券の売り手口が目立ったからといって、その証券会社が自己ポジションで売り仕掛けているわけじゃないんです。