【ビジネス】最後のメッセージ
ディーラーという仕事。
会社の資金を相場で運用して利益を出すのが仕事だ。
相場だから、勝つこともあれば負けることもある。
でもこの仕事は勝ち続けなければならない。
負けたらクビ。
拾ってくれる他社があればいいが、今のご時世そんなに甘くはない。撤退・縮小が相次いでいる中での椅子取りゲームだ。
そんな厳しい世界だけれど夢もある。
本当に一流のプレーヤーになれば、年収は数千万どころか億にもなる。
ただそれを手に入れられるのはほんの一握りの人間だけだ。
野球やサッカーでもそうであるように。
他人様のお金でリスクを取る。
それだけ責任の重い仕事だ。
勝負であっても博打ではいけない。
プロの運用者として続けていくためには、プロとしての自覚、誇り、矜持、努力、知識、経験、実績…様々なものが求められる。
自分は二十数年間、ディーラー(プレーヤー)として戦い続けてきた。
もちろん年間を通して負けたことなど一度もない。
会社から求められる結果以上のものを出してきた自負もある。
でもいつも不安を感じ、自分に疑問を投げかけ、明日終わるかもしれないという怖さを感じていた。
だから必死だった。
人の何倍も努力して、懸命であること、それが結果に繋がる。それだけがその不安を乗り越える勇気の糧となった。
今日、部下の一人に今期末でのクビを言い渡した。
若いし、その可能性も楽しみにしていたから、とても残念だった。
何度も諭し、叱り、怒りもした。
それでも伝わらなかった。
自分は部長として後輩達、部下達がヤラレて怒るなんてことは滅多にない。
ヤラレようと思ってヤラレるヤツなんて一人もいないことは分かっているし、そのヤラレをこいつらなら必ず糧にしてくれると信じているから。
でも何度も同じことを繰り返し、いくら言っても博打的な売買を繰り返す。損失が拡大しても意地になって突っ張るばかり。会社が決めた限度額に何度も達してしまう。それはもはや運用ではなく、博打でしかない。
昨日成田空港で状況を聞いてから、ずっと悩んでいた。
でも会社の資金をただのリスクにさらすわけにはいかない。
300万…この仕事をしていると軽く感じてしまうけれど、大切なお金だ。若い子なら人一人を一年間雇ってやることすら出来る。
『他人のお金だから負けてもいい?』
そんなことはプロとして絶対に思ってはならないことだ。
相場は勝ち負けのある世界だ。
その中で戦い続ける以上、負けてもいい。
いや負けることがあるのが当たり前だ。
でもそれはコントロールされたものでなければならない。
負けとどう向き合うか、それはつまり自分自身とどう向き合うかということでもある。
悔しいとか、怖いとか、意地とか、そういった主観的な感情に流されることなく、自分と向き合い、強い意志で理性を保たなければならない。
彼がこれから他社に拾ってもらえるかどうかは分からないが、これからも相場の世界にいたいと思うのなら、そのことだけは覚えておいて欲しいと思う。