【トレード】向き合うべきもの⑤
あの日の夜は悔しくて一睡もできなかった。
翌日、一日だけ休暇をもらって、全然気持ちも休まらないまま過ごした。
相場が気になる。
忘れろと言い聞かせる。
たまたま忘年会に呼ばれていたのも救いだった。
そういう時間は少しだけ忘れることができた。
でも▲3400万円の損失という事実は消えてなくなりはしない。
あのトレードをなかったことにしたいとどんなに思ったって時間は戻らない。
誤魔化すことも逃げることもできない。
乗り越えるしかない。
この苦しさを糧にして、必ず乗り越えて、より大きなディーラーになってみせる。
その翌日から自分と向き合う日々が始まった。
日々のトレードの履歴を全てチェックしながら、その日の値動き、マーケットの状況と照らし合わせながら反省点を探していく。
なぜそこまで追い込まれるようなトレードをしてしまったのか?
会社に行き、端末の前に座り、相場を横目に見てはいるけど一切の取引を止めた。
発注用の端末は電源を落としたままだった。
自分は全てのトレードを毎日Excelで保管し、記録をつけ、日々反省点を書き続けていた。
若手の頃からの習慣だ。
それをもう一度読み返しながら自分自身のトレードを振り返っていく。
いい時の自分なら絶対にしないようなポジション(リスク)テイク。
リスク量のコントロールも見失っていた。
なんでこんな雑なトレードをしているのだろう。
あのとき自分は何を考えて、このトレードをしたのか?
一日一日をさかのぼっていく。
伏線はその二ヶ月前までのトレードにあった。
その年の四月以降(つまり年度)、自分は好調だった。
自身の月間最高益を7月に更新し(7700万円、それまでは7000万円)、その後も安定的にリターンを出していた。
そして自分でも気づかないうちに欲が生まれていた。
『月間一億超えを狙いたい』
かつて若手だった頃は
『月間平均1000万円をクリア出来てようやく一人前』
と言われて育った。
常にそれが目標だった。
そしてそれをクリアできるようになった次の目標は月間3000万円、そして次は5000万円。
月間一億円はなかなか手の届かない夢の水準だった。
でもその頃にマーケットフォーラムを通じて知り合った他社のディーラーがそれを実現したという話を聞き、『負けていられない』という気持ちになっていた。
そしてようやく自分にもそれが視野に入りつつある。
今期中にはやってみせる。
どこかにそんな思いがあったのだろう。
自分のキャパシティの120%という自分なりの決め事があったにも関わらず、それを超えてロットアップしていった。チャレンジしなければ成長はないと思っていたから。
でもその裏に焦りや過剰な欲があったことには自分自身気づけていなかった。
マーケット環境など関係なしにロットアップしていく。
そして11月に手が合わなくなりはじめた。
我慢できたはずのところで、ロットを上げ過ぎたことから我慢が出来なくなり切らされる。
リズムがかみ合わなくなっていく。
ロットは上げているから損益だけはよくブレる。
にも関わらず11月は負けは取り返して138万円の利益でしのぐことは出来た。
そこで気づくべきだった。