【ビジネス】ディーラーという仕事の変遷⑦
OMSが導入され、取引はスムーズになり、その管理も充実していった。
そのシステムさえあれば、
場中の売買状況や損益状況も管理できる。
かつてのようにオーバーナイトはしっかり制限かけていても、日中はある程度自由に…なんてことは出来なくなった(まぁそれはそうあるべきなんだけど…(^^;)。
引け後に伝票めくりながら約定を手入力するなんて必要もなくなった。
ミスもなくなり、照合結果が合わないと伝票ひっくり返して何時間も悪戦苦闘するなんてこともしなくていい。
事務負担も大幅に低減され、管理体制も強化された。
ディーラーの発注プロセスも、取引所端末で価格や株数、社内番号なんかを手入力してEnterなんて面倒くさいやり方ではなく、板上でただワンクリックするだけで注文が流れるようになった。
とても便利な代物だ。
ただ問題は証券会社側、ディーリング部門とその管理部門がその便利さに依存しきってしまったことにある。
かつて伝票を手入力でアレコレとやっていた時代は、自分達で法令を理解し、自分で計算することも出来たし、新しい取り組みをするにも考える力があった。
システムが導入されて以降は、自分ではよく計算式を理解できていなくてもシステムがやってくれる。管理部門の知識レベルは昔より低くなっていると自分は実感している。
証券会社の自己資本規制比率を計算するには、標準的方式(簡便法、デルタプラス法)と内部管理モデルがある。
その内容をしっかりと説明できるバックオフィスの人材が中小証券にどれだけいるのだろう?
かつての方がそういったものをExcelなどあっても展開できるスキルを持った人材は多かった気がする。
そう。
システムの利便性は人間の依存と思考停止状態を招いた。
バックオフィス部門についてはかつてに比べて、自分達で考え、何かを切り拓いていく力が著しく低下した気がする。
ディーラー達が何か新しい商品や市場にトライしたいと思ったとき、それを可能にできるかどうかはそのバックオフィス部門の対応力に依存せざるをえない。
適切な決済フローの確立、資金、自己資本規制比率などの計算、管理…それらが出来て初めてディーラー達は新しいチャレンジが出来る。
以前に書いたようにディーラー達が社内的に浮いた存在になり、管理部門が非協力的になっていた面もあるし、管理部門自身が自分達で考える力をそれほど持たなくなってしまったこともある。
結果として、「俺たちが何か言ったってどうせやってもらえない。」という若い世代のディーラー達のあきらめの声につながっていったのだと思う。
そして一番困ったのは…肝心のシステムが対応してくれないと新しい商品が何もできないということ。
例えば、取引所が新しい派生商品をリリースする。
OMSからも対応費用を求められる。
さらにはバックオフィスベンダーからも対応費用を求められる。
後者に至っては平気で一千万とかそういった値段を吹っかけてくる。
個別銘柄増えたってお金とられるわけじゃないのに、先物一つ追加するだけで毎回そんな金額取るなんて…信じられない。
ラッセル野村プライスインデックス先物が上場されたとき(その前後は全部そうだったけど)、同じように多額の対応費用を要求された。
結果として、ほとんどの中小証券はその取引を諦めてしまった。
システムベンダーに依存しきってしまった結果、彼らが要求するコストが高過ぎて新しい商品にトライしたくても、流動性供給という責務を果たしたくても出来なくなってしまったのだ。
取引所側は大手証券や外資系証券にマーケットメイクを依頼し、そういったところがシステム的に売り買いを提示はしていたものの、受動的にしかリスクを取らないマーケットメーカーだけでは市場は活性化しない。アクティブに動くリスクテイカーであるディーラーなどの流動性供給は必要なはずのものだった。
結果として、ほとんどの新しい先物商品がコケた…。
システムベンダーに依存しきったために、何かするにもすべて開発や対応をしてもらわなければならない。
そしてその費用が適切であればともかく、かなり過大な費用を要求されることが多かったために、ほとんどの地場証券のディーリング部門は新しいものをトライすることなく、ただ今までやれてきたものだけを継続していくようになっていった。
ここ数年、そういったシステムベンダーも協力的に対応をしてくれるようになった。
合理的かつ納得感のある対応費用でやってくれるようになっていると言ってもいいだろう。
おかげでウチでは新しい取り組みを様々な形で進めていくことが出来ている。
ただこれからの時代。
それだけでは追いつかなくなるかもしれない。
システムインフラという面では、また新たな変化が必要となるときが来ていると思う。
取引所、証券会社、それをつなぐシステムベンダー、ブローカー…。
ディーリングという業務に関わる会社は沢山ある。
それぞれが市場の発展に資する努力をし、建設的に協力しあい、業界や市場を活性化させていくこと。
そのうえで利益をそれぞれが享受できるような業界環境になってくれたらと願う。