【マーケット】SQ今昔物語④
裁定取引は1990年代後半から大きくその様相を変えていきました。
それまでは先に書いたように中小地場証券でも結構裁定取引やっていたし、それなりには稼げていました。90年代前半ほどおいしくはなかったけれど。
ただ競合が増えれば増えるほど、システムが高速になればなるほど競争は激化し、薄利多売の世界になっていったのです。
より資金力があるところ、資金調達コストが安いところの方が有利な裁定取引。
さらにシステム投資にお金がよりかかるようになり、地場証券はかなり厳しくなっていく。
そんなときに思い出すのも恐ろしい出来事が…(笑)
ドイツ証券の台頭。
1998年のメジャーSQだったかな。
メジャーSQ寄り前の注文状況は100万株以上の売り超。
各社の建玉やら分析している限りはこれだけの売り超がひっくり返るのは想像できなかった。
SQでの発注方法は各社各様で、某米系証券は上下3本ずつ売り買い並べるようなバスケット入れるとか、欧州系のあそこは何時頃に入れるとか、あそこは結構ギリギリに入れてくるとか、ある程度これまでの経験から見えるところもあり、まぁこれは大幅安から始まるなとみんな考えていたと思います。
それだけ大量の売り超だったSQの寄り前注文状況。
東証・大証よりも少し早く始まるSGX(シンガポール取引所)の日経平均先物はみるみるうちに売られていった。
SQ値は結構下になると予想できたので、裁定業者やってるところが積極的に先物を同市場で売っていった。もちろん彼らは裁定業者なので現物バスケットを成り行きで買いを入れる。
その予想通りSQが安く決まればSGXで売った先物と安い値段で買った現物バスケットで結構な利益が得られるはず…だった。
時報が鳴らされ、刻々と近づく寄り付き。
9時ちょうど。彼らが寄り付きを迎えて勝利を確信した瞬間。
我々は信じられないものを目にしていた。
ほとんどの銘柄が思いっきり上の値段で寄り付いていた。
何が起こったのか瞬間分からなかった。
取引所端末を叩いて業者を確認する。
『ドイツ証券です!百○十万株の買い指値上まで入れてます!』
安いとこまで先物売っていって、挙句思いっきり現物バスケットは上の値段で買わされた。
思いっきりの逆ザヤ。まさに爆死。
薄利多売でコツコツ積み上げてきた裁定取引による利益が消し飛んだ瞬間だった。
そこで撤退に追い込まれた地場証券も何社もあったと思う。
そしてその半年後にも同じことが起きて、地場証券は裁定取引から姿を消した。
その頃から裁定取引の目的は変化していきました。
高速化と競争激化の中でサヤは縮小し、単なるサヤ取りによる収益獲得という目的ではシステムにかかるコストや大量に必要とされる資金を正当化できない。
でもその頃から増えていったのが『在庫調達』という目的での裁定取引。
裁定取引でポジションを持つということは『先物売り、現物バスケット買い』のポジションを持つということになります。
その現物株のバスケットは在庫となり、ヘッジファンドなどが空売りの時に借りるための貸し株となった。裁定取引によって現物株の在庫を持ち、それを貸し株という形で使い、貸し株料を得ることができる。
そのため裁定取引をやっている業者(証券会社)は、外資系証券や大手証券、銀行系証券などに集約されていきました。彼らはPB(プライムブローカレッジ)をやっていて、ヘッジファンド向けの融資や貸し株といったサービスを行っていたからです。
http://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/program/index.html
このサイトで公表されている報告書には裁定取引をやっている業者名、売買した株数なども掲載されています。それをみれば現在、裁定取引に関わっている業者の動きは見えてくるはず。
ここまでいくつかリンクを掲載しました。
取引所のマーケット情報のところには非常に有効なデータがいくつも載せられています。
ただそれを単発で見てもあまり意味はありません。
ちゃんとデータとして蓄積し、丁寧に分析を続けていく。
それをやることで見えてくるものもある。
信用取引や裁定残にかかる情報、投資主体別売買動向など。
特に投資主体別売買動向については、いまだに多くの情報メディアが現物株の動向しか示さないでいます。ただ先物市場がこれだけ大きな影響を及ぼすようになっている現在、先物の動向を合わせてみなければ十分とは言えません。
未だに外国人投資家が買ってる売ってると現物株の動向だけ見ていっている記者や相場解説者がいたりします。そんなとき先物と合わせて見てみてください。彼らの根拠が時としてあまりにも薄弱なことが分かるときがあります。
市場を分析する。
全体の資金の流れや動きを分析し、予測する。
そのためには多くの情報をしっかりと整理し、蓄積し、分析する。
記者やブロガーの書いた記事はその人の主観やバイアスがかかりやすい。
でもデータはデータです。
それを元にどう考えるかは自分次第。
自分が部下によく言う言葉があります。
『誰かの記事やコメント、ブログ読んで相場張っている時点でプロとは言えねーぞ。運用の最前線で戦うプロなら自分で見るべきものを見て、自分で考えろ。誰かのコメント見てトレードしている時点で後追いだし、相場ではいつも誰かが教えてくれるわけじゃないんだから。記者から取材されるぐらいになって初めてプロと言えるんだぞ。』