【マーケット】SQ今昔物語②
そんな時代ですが、情報はかなり開示されていたので各社のポジション集計さえしっかりやっていれば、ある程度SQは予想が出来たのです。
個別株も先物も手口が公表されていたので、取引所のプログラム売買報告書と合わせて各社のポジション状況のデータをしっかりと更新し、分析する。取引所集中義務があった時代でもあるので、見えないポジションはそれほど意識しないでもよかった。
SQ週には特にポジションの動かし方が激しくなる。毎日それを追いながら今回のSQは高いとか安いとか、どの業者が売り方で、どの業者が買い方で、海外要因などを抜きにすればSQ需給でいくらぐらい上か下かなんて読みもやっていました。当時は現物株のディーラー達から、『明日のSQってどんな感じ?』と毎月聞かれていましたね。
SQの話を突っ込んでいく前に『裁定取引』がどんなものかを簡単に説明します。
先物には原資産に基づいて計算される『理論価格』があります。
でも先物も現物も市場で売買されている以上、その『理論価格』通りには動かない。
大きな買い方がいれば(原資産に比べて)割高な水準まで先物が買われることもあるし、急落リスクが高まると先物へのヘッジ売りが殺到して、先物が(原資産に比べて)割安な水準まで売り込まれることもしょっちゅう起こります。
そのため先物が割高なときは『先物売り、現物バスケット買い=裁定買い』、先物が割安なときは『先物買い、現物バスケット売り=裁定(解消)売り』という取引を行うことで、そのサヤを取ることができます。
先物売りと現物バスケット買いの金額が合致していれば、一度組んでしまえば利益は基本的に確定。その後どんなに相場が乱高下しても売りと買いの組み合わせなのでリスクはない。SQまで持ち込めば同じ値段で解消できるし、解消売りをするチャンスがあればそこでより有利な価格差で解消することもできる。
基本的にはそんな取引です。
ちなみに当時から『裁定解消売りで下落』とか『裁定解消売りのせいで相場が下がった』とかアホなコメント出す相場解説者や記者が後を絶たないですが、裁定売りは同じ金額先物買うので下落要因ではないってことはしっかり覚えておいてくださいね。あくまで先物を下までたたき売るヤツがおるから裁定解消売りが誘発されるのであって、裁定業者自身で売り崩しているわけではありません。知ってる人が聞いたらこいつ全然分かっとらんなとバレますからね(笑)
で、実際に取引するにあたって、先物は証拠金ベースなのでそれほどお金(資本)は必要ありませんが、現物株のバスケットを買うにはそれだけのお金(資本)が必要になります。
当時、先物といえば日経平均先物とTOPIX先物でした。
でも裁定取引においては(特に中小証券)圧倒的に日経平均型が多かった。
単純に先物売り買いするだけならさほどの違いは感じないかもしれませんが、裁定取引やるときって実は大きな違いがあるんです。
それは指数の計算方法の違いによります。
日経平均株価は『修正単純平均』で採用銘柄は225銘柄。
TOPIX(東証株価指数)は『時価総額加重平均』で採用銘柄は東証一部全銘柄。
日経平均型のバスケットは採用単位数に従って225銘柄を買えばいい。
同じ金額分(正確には除数と同じ枚数)先物を売っておけば、売り買いの金額は合致して『ズレ』ることは基本的にない(※1)。
TOPIXの場合はそうはいかない…。
東証一部全銘柄買うのってとんでもない資金量が必要。
さらに時価総額加重平均という計算式のため、時価総額に応じて株数を調整する必要がある。
具体的に現在(2016年12月)の事例でいうと、TOPIX採用銘柄で時価総額最大の銘柄は(7203)トヨタで指数に占めるウェートは3.929197%。最小は(7608)エスケイジャパンで同0.000261%。実に1万5054倍もの時価総額の差があります(下記のURLからダウンロードできる野村投信のTOPIX型ETFでは15044倍の差になっています)。(7608)を最低売買単位の100株バスケットに組み入れると、最大のトヨタは150万5400株も買わないと計算が合わなくなってしまう。トヨタだけで100億円超のバスケットって…全銘柄買ったらとんでもない金額のバスケットになります。ありえないですよね(^^;
そうなるとTOPIX型の裁定取引をやるためには一定の金額に応じたバスケットを極力TOPIXという指数に連動するように構成していくしかない。当時は中小証券の資金力でバスケット構成しようと思うと数百銘柄がいいとこでした(※)。ただ実際の指数算出の元になる銘柄数を大幅に下回る銘柄数で現物株のバスケットを構成する以上、必ず『ズレ』が生じます。それを最小化する努力はするんですけどね(^^;
『ズレ』をより小さくしたければ銘柄数を増やすしかない。もちろん資金量が豊富であればより多くの銘柄を入れられますが、その分いちバスケット当たりの発注金額が大きくなるため、裁定取引でのバスケット発注時のマーケットインパクトによるリスクも大きくなります。そもそも中小証券にはそこまでの資金量はない。
そこで1バスケット当たりの金額を決めて(TOPIX先物の売り枚数もその金額に合わせる)、その金額の範囲内でTOPIXという株価指数に連動性を保てるようにポートフォリオを構成していくことになります。そのためにはある程度の分析力や資金力が必要になる。結果として、中小証券の裁定業者はほとんど日経平均型をやっている印象でした。
ちなみに自分が所属していたチームではTOPIX型もやっていました。いくつかの金額でのバスケットを作り、TOPIX先物に大きな買いが入って割高になった瞬間に割高な先物売り、そのバスケット買いという裁定取引を行う。バスケットを作る際はBARRAモデルを使ったり、Excelを駆使してポートフォリオを構築していってTOPIX連動型バスケットを作っていました。ま、それでもやっぱりしばらくすると『ズレ』は生じていましたけど(^^;
その『ズレ』のことをトラッキング・エラーといいます。
指数連動型の運用をする人はそれを基本的に避けるように運用を行うのです。
(※)TOPIX連動型の投信なんかも金額が小さいと同じように全銘柄組み入れが難しい場合もあり、一定比率でしか組み入れていない場合が多い。現在ではETFの金額がかなり大きくなっているためほぼ全銘柄組み入れているようですが、始まった頃はもっと少なかったはずです。大和投信なんかは指数構成銘柄の95%以上を組み入れるとしているようですね。
(参考)
野村投信
http://nextfunds.jp/data/monthly_holdings.html
大和投信
http://etf.daiwa-am.co.jp/funds/detail/detail_top.php?code=5841
続く