【マーケット】市場を創る
『市場を創る』
これって取引所だけで出来ることじゃない。
新しい商品や先物を設計し、『市場を作る』のは取引所がやってくれる。
でもその商品の売買が活性化し、個人や機関投資家といった顧客が参加しやすい環境を創るのは証券会社が担うべき責任だと思う。
最初は出来高がどれだけ出来るか分からない。儲かるかどうかも。やってみなけりゃ分からないのはみんな一緒だ。
でもその商品が活性化し、自己の取引機会や顧客のニーズが増えることによって潤うのは証券会社だろう。
証券業界の一員として、市場の活性化や商品の発展には一定の責任を担うべき存在。それが我々証券会社だ。
かつて自分が若かった頃は厳しかった。
誰よりも早い時期から新商品の特性やリスクを研究し、事前に準備しておくのは当たり前。手抜きや漏れがあれば雷落とされた(笑)
当然、よく理解していない参加者がミスプライスつけるなんてこともあったし、それは収益機会にもなった。一方で、顧客が注文出しても板がなければどうにもならない。そのためヘッジプランもしっかり用意したうえである程度板を出してリスクを取りつつヘッジもしながら面倒くさくても流動性を供給するのが当然だった。
でも証券自己も変わった。
ディーラーの契約化が進んだ結果、儲かるか分からないのに労力やコストをかけたくないというディーラーも増えた。
そんなことやって万が一ヤラレてクビになるのも馬鹿馬鹿しい。
でも一番の問題は、各証券会社がそもそもその商品に対応しないという選択を取り始めたことにある。
その原因は『システム』だ。
取引、管理、決済がシステム化されたことにより、システムが対応しなければその商品が出来ない(厳密に言えばやれなくはないのだけれど)。
そして先物で一つ商品の追加するのに高額のコストを要求していたシステムベンダーがあった。
個別株一つ増えたってコストは特にかからないのに、先物になると同一通貨で乗数が違う程度であってもバックオフィスシステムの対応に1千万近く~2千万程度まで『証券各社に要求する』システムベンダー。さらにディーリング用のシステムでもそれなりのお金を取られた。
先物で儲けられるディーラーがいない証券会社や顧客で先物をやる方がいない証券会社はどんどん積極性を失っていった。
『そんなにコストかかるなら出来高が増えるかどうか見てからでいい。』
いわば様子見だ。
気づけば証券会社は様子見ばかりになり、その先物スタート時に取引出来る環境を整備しているのは大手、外資系ばかりになっていった。
そして取引所の方は言う。
『マーケットメーカー(売り買いの板を表示してくれる)を何社お願いしてあるから…』
自分は常々言っていた。
『マーケットメーカーばかりをいくつ並べたってダメですよ。彼らは売り買いは表示するけど受動的にしかリスクを取らない。積極的なリスクテイカーが入らなければ約定につながらないし、建玉も増えない。結果、市場は育たない。』
ミニ日経先物の時は大証さんと連携して、マーケットフォーラムの活動を通じて業界関係者に集まってもらったり、いろんな取り組みをした。その時も本業のディーリングではバックオフィスシステムの対応が間に合わないというので、この商品だけは手書き伝票で対応させろとまで上にかけあい流動性を供給した。
だってその頃、自分のいた証券会社は日経平均先物での手口は連日トップにいたのだから。その会社がミニのスタートで流動性を供給しないなんて恥ずべきことだ。
そして毎日引け後になると、馬鹿みたいに分かれたミニの約定を小さな文字で手書きで伝票に書くことに1~2時間も費やす羽目になった。
そこまでしてでも流動性を供給する責任を果たそうと思った。
でも結局システム対応しなければ抜本的な対応は出来ない時代だ。そして証券会社が新しい商品に積極性を失ったほとんどの理由は『システムコスト』だ。
でもかつてはボッタクリとしか思えなかった新しい先物対応のためのシステムコストもようやく下がってきている(まだ十分ではないが)。
システムベンダーにお願いしたいこと。
新しい商品に対応するためのコストは最小限にとどめて欲しい。
その商品が育てばあなた達の利益にもなるはず。だって会社によってはいち約定毎に証券会社からお金とってるんだし。それなのにあなた達が原因で各証券会社が新しい商品に取り組みづらいという状況はなくしてほしい。あなた方が証券界の一員という自覚があるのならだ。
そして証券会社は、新しい市場や商品の発展のために自分達に何が出来るのか?そして何をするべきなのか?を真剣に考えて欲しい。
我々こそ証券界の一員であり、その発展には一定の責任を担うべきなのだから。
そしてディーラーのみんな。
無理はしなくてもいい。
でもその商品が軌道にのればみんなにとってのビジネスチャンスも増えることになる。
出来る限り前向きに取り組む姿勢は持って欲しい。
我々がそういう姿勢を持ち続けることが、我々の存在価値を認めてもらう道の一つでもあるのだから。
儲かりそうにならないものは一切手を出さない、コストや面倒かけてまでやりたくない…その気持ちは分からなくはない。でもね、そんな姿勢で居続けたら、我々の存在は不要と言われることになる。
かつてディーラーが絶滅危惧種と揶揄された頃。『流動性はHFTがいればいい』と言う人が沢山いたことを思い出して欲しい。
流動性は市場参加者の多様性があって初めて健全なものになると俺はずっと言い続けた。
その多様性の一つとして、俺たちは俺たちがするべき仕事をしよう。
そうやってみんなが一丸となって市場を創り、個人投資家や機関投資家といった市場参加者が入りやすい環境を整える。それが市場の発展につながり、みんなの未来にもつながっていくのだから。