【ビジネス】フラッシュ・ボーイズと東証ワーキングペーパーを読んで①
「フラッシュ・ボーイズ」
マーケット大好きな人はもう読まれてますよね。
HFTが大嫌いと言っている人達も多くは彼らがどんな取引をし、どうして数年間でほとんど負けることがないなんて取引を実現しているのかは分かっていない(自分も十分ではありませんが)。
多くの人が、ただ「超高速で有利な環境を利用してサヤを取り、我々の得るべき利益を掠め取っている悪い奴ら」というぐらいの認識でしょうか?
ここに東証が公表しているワーキングペーパーがあります。
米国市場の複雑性や様々な諸問題と東証との比較などが挙げられています。
どちらかといえば東証のワーキングペーパーは自己正当化、結論ありきのイメージが強いのであんまり好きではないのですが、少なくともこのワーキングペーパーはよく調べてあり、研究されています。
フラッシュ・ボーイズを読んだ人ならばこれも読んでおくべきでしょう。
http://www.jpx.co.jp/news-releases/ncd3se0000001a72-att/JPX_WP_SP.pdf
確かにHFTはコロケーションや高速なインフラを利用し、その環境優位性をもってサヤ取りをしています。目にも止まらぬスピードで。
彼らはごく小さな注文を無数の銘柄にばら撒きアンテナを張っています。そして大口の注文や市場の動きを感知し、サヤを掠め取っていきます。
直感的には「ズルい」と感じてしまいますよね(^_^;)
でも環境の格差は今に始まったことではないのです。
まだ立会場があった頃、「場立ち」と呼ばれる人がいました。
彼らは顧客の注文を捌いているだけではありませんでした。それだけではなく自己売買も行っていました。
大口注文が入りやすい大手証券のブースなどに常に注意を払い、そこの場電から発せられる手サインを見て大きい注文が入ったとみるや我先にとその銘柄のブースに殺到しました。要するに「提灯をつける」のです。大口注文に乗っかることで自己の利益を上げる。当時は手サインで取引内容を場立ちに伝えていましたからある意味大口投資家の注文はバレバレだったのです。
また2003年6月までは「手口」が公開されていました。ただし、取引会員である証券会社だけにです。つまり証券会社の自己売買部門は今の買い注文がどの証券会社から出たのかをリアルタイムに知ることが出来たのです。その裏の顧客の注文内容までは分からなくても「手口分析」という言葉があったぐらいで、それによってどこがいつからいつまでの間に何株ぐらい買っているかも分かりました。営業マンやトレーダーに電話して状況をやりとりしながら売買する一般投資家に比べて、直接発注出来る自己売買部門は速度でも優位に立ち、情報面でも優位にあったのです。
そんな環境格差はこれまでもずっとありました。今、それを得ているのがHFTというだけです。
フラッシュ・ボーイズで中心的に取り上げられているレイテンシー・アービトラージは昔からその原型はあったのではないかと思います。
しかも複雑化された市場であり、情報配信にすら格差が起こりえて、サーバーの立地環境も物理的な距離が多く、レイテンシー・アービトラージの隙間が沢山ある米国と、東証が売買の9割を占めていて、その隙間が限定される日本を同列には考えるべきではないでしょう。それはこのワーキングペーパーを見れば理解できるのではないでしょうか?
もちろん顧客がどういう注文を出しているのかを知り、その先回りをするフロント・ランニングは許されてはいけないし、違法行為です。
また取引所やPTSが注文を受けてからHFTが先に割り込めるような仕組みがあるのならアンフェアです。もちろんそれはないはずです。それがブローカーであれ、システムベンダーであれ、顧客の注文を誰かに漏らし、先回りさせるような仕組みがあればそれはフロントランニングであり同じように悪しきものです。
ただ市場での発注パターンを分析し、より高速な環境を活かして利益を上げる行為が悪ならば、かつてのそういった自己売買の商いも悪だと思うし、手口を見て乗っかっていた連中も悪でしょう。大口投資家から見ればそういった連中がいなければもっと安く買えていたはずなのですから。
だから手口を非公開にしろという意見も出てきたし、情報非公開のダークプールなどのニーズが出てきたのです。まぁ結果的にそれがHFTに利用もされた面はあるのですが…。
HFTが善か悪か?
ではなく
・意図的に情報格差をつけること(かつてとある情報ベンダーがお金をもらってほんのわずかに早めの情報配信をしていた)
・顧客の注文内容を了解もないまま不正に漏らして特定の市場参加者に優位性をもたらす行為
・市場の透明性・公平性を損なう行為
に問題があるのです。
一方で、HFTがもたらしたキャンセル率の上昇、約定率の低下は板の信頼性を失わせ、一般の市場参加者の市場への不信感や不公平感を強めました。個人投資家やディーラーは病的なほど「キャンセル」について厳しい制約を受けているというのになんでこんな取消が許されるんだ?と。
人間が手動でやる取引はその全容を把握するのは容易です。しかし、HFTは取引所、PTS、ダークプールを含めて複数の場所で複数のブローカーを経由して、大量の銘柄に無数の発注・取消・訂正を繰り返す。それを一元的に監督・監視出来ている人はいない。米国のように追跡システムもない日本、欧州のように過剰なキャンセルに規制や課税がされていない日本。「アクセス料」はアローヘッドでは課されていても微々たるもの。J-GATEに至ってはアクセス料すら課されていません。
誰も全容を把握出来てもいないのに彼らの発注・取消行為が悪質ではない、作為的相場形成、相場操縦にはあたらないといえるのでしょうか?
そういった不公平感が多くの市場参加者のHFT批判の根底にあるように思います。
マーケット大好きな人はもう読まれてますよね。
HFTが大嫌いと言っている人達も多くは彼らがどんな取引をし、どうして数年間でほとんど負けることがないなんて取引を実現しているのかは分かっていない(自分も十分ではありませんが)。
多くの人が、ただ「超高速で有利な環境を利用してサヤを取り、我々の得るべき利益を掠め取っている悪い奴ら」というぐらいの認識でしょうか?
ここに東証が公表しているワーキングペーパーがあります。
米国市場の複雑性や様々な諸問題と東証との比較などが挙げられています。
どちらかといえば東証のワーキングペーパーは自己正当化、結論ありきのイメージが強いのであんまり好きではないのですが、少なくともこのワーキングペーパーはよく調べてあり、研究されています。
フラッシュ・ボーイズを読んだ人ならばこれも読んでおくべきでしょう。
http://www.jpx.co.jp/news-releases/ncd3se0000001a72-att/JPX_WP_SP.pdf
確かにHFTはコロケーションや高速なインフラを利用し、その環境優位性をもってサヤ取りをしています。目にも止まらぬスピードで。
彼らはごく小さな注文を無数の銘柄にばら撒きアンテナを張っています。そして大口の注文や市場の動きを感知し、サヤを掠め取っていきます。
直感的には「ズルい」と感じてしまいますよね(^_^;)
でも環境の格差は今に始まったことではないのです。
まだ立会場があった頃、「場立ち」と呼ばれる人がいました。
彼らは顧客の注文を捌いているだけではありませんでした。それだけではなく自己売買も行っていました。
大口注文が入りやすい大手証券のブースなどに常に注意を払い、そこの場電から発せられる手サインを見て大きい注文が入ったとみるや我先にとその銘柄のブースに殺到しました。要するに「提灯をつける」のです。大口注文に乗っかることで自己の利益を上げる。当時は手サインで取引内容を場立ちに伝えていましたからある意味大口投資家の注文はバレバレだったのです。
また2003年6月までは「手口」が公開されていました。ただし、取引会員である証券会社だけにです。つまり証券会社の自己売買部門は今の買い注文がどの証券会社から出たのかをリアルタイムに知ることが出来たのです。その裏の顧客の注文内容までは分からなくても「手口分析」という言葉があったぐらいで、それによってどこがいつからいつまでの間に何株ぐらい買っているかも分かりました。営業マンやトレーダーに電話して状況をやりとりしながら売買する一般投資家に比べて、直接発注出来る自己売買部門は速度でも優位に立ち、情報面でも優位にあったのです。
そんな環境格差はこれまでもずっとありました。今、それを得ているのがHFTというだけです。
フラッシュ・ボーイズで中心的に取り上げられているレイテンシー・アービトラージは昔からその原型はあったのではないかと思います。
しかも複雑化された市場であり、情報配信にすら格差が起こりえて、サーバーの立地環境も物理的な距離が多く、レイテンシー・アービトラージの隙間が沢山ある米国と、東証が売買の9割を占めていて、その隙間が限定される日本を同列には考えるべきではないでしょう。それはこのワーキングペーパーを見れば理解できるのではないでしょうか?
もちろん顧客がどういう注文を出しているのかを知り、その先回りをするフロント・ランニングは許されてはいけないし、違法行為です。
また取引所やPTSが注文を受けてからHFTが先に割り込めるような仕組みがあるのならアンフェアです。もちろんそれはないはずです。それがブローカーであれ、システムベンダーであれ、顧客の注文を誰かに漏らし、先回りさせるような仕組みがあればそれはフロントランニングであり同じように悪しきものです。
ただ市場での発注パターンを分析し、より高速な環境を活かして利益を上げる行為が悪ならば、かつてのそういった自己売買の商いも悪だと思うし、手口を見て乗っかっていた連中も悪でしょう。大口投資家から見ればそういった連中がいなければもっと安く買えていたはずなのですから。
だから手口を非公開にしろという意見も出てきたし、情報非公開のダークプールなどのニーズが出てきたのです。まぁ結果的にそれがHFTに利用もされた面はあるのですが…。
HFTが善か悪か?
ではなく
・意図的に情報格差をつけること(かつてとある情報ベンダーがお金をもらってほんのわずかに早めの情報配信をしていた)
・顧客の注文内容を了解もないまま不正に漏らして特定の市場参加者に優位性をもたらす行為
・市場の透明性・公平性を損なう行為
に問題があるのです。
一方で、HFTがもたらしたキャンセル率の上昇、約定率の低下は板の信頼性を失わせ、一般の市場参加者の市場への不信感や不公平感を強めました。個人投資家やディーラーは病的なほど「キャンセル」について厳しい制約を受けているというのになんでこんな取消が許されるんだ?と。
人間が手動でやる取引はその全容を把握するのは容易です。しかし、HFTは取引所、PTS、ダークプールを含めて複数の場所で複数のブローカーを経由して、大量の銘柄に無数の発注・取消・訂正を繰り返す。それを一元的に監督・監視出来ている人はいない。米国のように追跡システムもない日本、欧州のように過剰なキャンセルに規制や課税がされていない日本。「アクセス料」はアローヘッドでは課されていても微々たるもの。J-GATEに至ってはアクセス料すら課されていません。
誰も全容を把握出来てもいないのに彼らの発注・取消行為が悪質ではない、作為的相場形成、相場操縦にはあたらないといえるのでしょうか?
そういった不公平感が多くの市場参加者のHFT批判の根底にあるように思います。