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【ビジネス】HFTは善か悪か?

HFTについての議論は今後の日本の市場をどう育成していくかという意味でとても重要な議論だと思う。

ただHFTをひとまとめにして善か悪かという議論はちょっと違う気がする。
定義すら曖昧なHFT。
欧米でもそれなりの定義づけはされているけれど、それをただひとまとめにしてその存在を問うというのはどうか?

本来、HFTはとても合理的な存在。
テクノロジーの進歩により生み出された存在。
高速なシステムやインフラに投資をしてそれらを駆使して環境優位性を実現し、利益を上げている。
それ自体になんの問題もない。

環境優位性や情報の優位性を問うのであれば、そんなものは昔からいくらでも存在したではないかと思う。
自分が若手ディーラーだった頃は取引所端末を使って売買をしていた。今のシステムに比べればかなり遅いシステムだったが、それでも優位な環境だったと思う。
【顧客】
注文状況を聞く(顧客→営業担当者→トレーダー→営業担当者→顧客)
注文を出す(顧客→営業担当者→トレーダー→市場)
約定が返ってくる(市場→トレーダー→営業担当者→顧客)
【自己】
注文状況はリアルタイムに把握
直接市場に注文を出し、約定は数秒で返ってくる

立会場にいればそれこそ大手証券の大口注文(手サイン)みて先回りする動きも出来た時代があったはず。そういう意味では昔も今も変わらない。環境による情報格差の不平等は存在し続けている。HFTはコロケーション、インフラ、システムに投資を行い、高速な環境を実現している。それ自体は違法性もなく、合理的な話だと思う。

一方で、顧客注文を取得し、その情報を元に先回り注文を出して利益を上げる行為はブローカーならフロント・ランニングであり違法行為だ。ファイヤーウォールをしっかりと守り、顧客の注文情報を守ることは大切。
もしHFTが他の市場参加者の注文情報を監視し、それに先回りで注文を出すような仕組みを持っているならそれはいけない。しかし、取引所のシステムはそれを許してはいないはずだ。
そういう情報の不平等を理由にHFTを悪と決めつける意見には賛成できない。

ではHFTに問題はないのか?というとそうではない。
HFTは超高速に注文の発注取消を行う。
そしてそれは国内取引所、海外取引所、PTS、ダークプールと幅広く同時多発的に実行される。
それ自体に問題はないのだが、その全容を把握し、監督・監視できる体制が日本はあまりにも不十分だ。
HFTが使うプログラム。
それは人間が作ったものだ。
ディーラーでも個人投資家でもファンドマネージャーでも悪質な売買を行う者はいる。
プログラムも人間が作る以上、そこには悪意が存在しうる。
一部のHFTのソースコードをみれば、そこには悪意が存在している可能性は十分にある。
それぞれのHFTの売買状況を市場横断的に全て把握し、その発注取消の違法性を精査し、悪質なものを摘発できるか?ということに大きな課題がある。

HFTはメーカー的に市場情報を元に指値をし、流動性を供給している。
一方でそのキャンセル率はかなり他の市場参加者に比べて高い。
それが板情報の信頼性を失わせ、その板情報によって他の市場参加者の売買が誘引される恐れもある。
そして意図的に市場情報(板)に変化を与えて他の市場参加者の売買を誘引しようとするプログラムもおそらくは存在している。

「(自動化された)プログラムだからそこには意図がなく、人間がやるとそこには意図があるからダメ」
というのはプログラミングをよく理解していない人がいう発言だろう。
過去の統計データや市場の売買情報を元にどういった変化を与えればそういった動きを誘引できるかを分析し、プログラムに実行させることは可能なのだから。
そしてそれは「相場操縦行為」であり、違法行為だ。
「人間の売買は把握しやすいから捕まり、HFTの売買は把握しきれないから捕まらない(捕まっても全容が把握できないので処分内容があまりにも軽い)」
では話にならない。それこそ不平等であり不公正だ。

HFTが合理的存在であり、市場には必要な存在だからこそ、健全なHFTを守るためにも悪質なHFTを監督・監視し、処分して市場から退出させる仕組みが必要だ。
そしてそれには莫大な費用がかかる。
米国はそれを進めた。
欧州は様々な問題からそちらではなく規制や税金を課すことによってHFTを抑制しようとしている。
日本がどちらに向かうのかは自分の知るところではないが、日本の市場が彼らにとって野放し状態のままではいけない。

HFTが善か悪かひとまとめに議論するのは、人間の市場参加者をひとまとめにして善か悪かを議論するのと大して変わりはない。
そこに存在しうる悪意をどう見つけ出し、市場の健全性を守っていくのかを議論すべきなのだと思う。


(大機小機)超高速取引が問うもの
http://www.nikkei.com/article/DGKDZO71820390W4A520C1EN2000/

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閑散としている、相場・・・

ディーラーさん こんにちは。

ここ最近は、相場が閑散としているような気がします。
こういう時でも、トレードはなされるのでしょうか?

トレンドが小さいため、全然、取れなくて
私は嘆いちゃっております。

Re:閑散としている、相場・・・

>tradeさん

職業ディーラーであれば基本的には毎日相場に向かっていますが、休むも相場ですからね。
手法にもよりますが、日中の出来高やボラティリティが低い相場ではデイトレードはかなり厳しくなって当たり前なので、無理をする必要はないと思います。

いつも楽しみにしております

とても詳しくわかりやすく、バランスも良い解説で感銘をうけます。

現在の場口銭は約定金額に応じて発生しているのでしょうか?
一部の悪質なHFTの特徴としてキャンセル率の高さはありますか?
取り消し金額(件数でなく)に応じて場口銭を課すというのはどうでしょう。
コスト負担増で割にあわず、退出。
約定金額に対しての口銭は流動性に貢献したのだから、大幅割引。
いんちき注文が激減し、東証の信頼性UP。お客が増える。
という夢を見ました。

Re:いつも楽しみにしております

>ぷぷさん

アクセス料は下記のような形で取引参加者に対して課せられています。

http://www.tse.or.jp/about/participants/b7gje6000001wd6e-att/fee(Japanese)20140324.pdf

ただ各顧客毎にアクセス料に応じた手数料を取引参加者(ブローカー)が課しているかどうかは…「?」です。

ブローカーは様々な顧客から注文を取り次いでいますし、その中には複数のHFTが含まれています。どの顧客によってアクセス料が上がっているのかを精査して平等に徴収するのはかなり煩雑であり、金額から考えても現実的ではないでしょう。
このアクセス料の課金テーブルでは実効性はあまりないかもしれませんね。
欧州ではキャンセルに対してペナルティを課しているところもあります。悪質なHFTに限らず、HFTの傾向としてキャンセル率はかなり高いので有効かもしれません。ただ行き過ぎればHFTの排除に繋がってしまう可能性もありますね。
規制強化に動いている欧米ではHFTのシェアは2009年をピークに下げ続けています。

少なくともHFTを非難する擁護するといった偏った議論ではなく、健全なHFTが維持可能な規制や課金にとどめながら、悪質なものをどう排除するかを議論していくべきでしょうね。

どうも取引所はこれまで彼らを誘致することに積極的だったせいか、擁護にばかり偏りがちな印象を受けます。一方でメディアはHFT=悪と決めつけたがる印象です。
確かに彼らの中にも悪質なものはいる。「システムには意図はないから相場操縦にはならない」なんてことを恥ずかしげもなくいうのは無知をさらけ出すようなもの。プログラムを書くのが人間である以上、そこに悪意を組み込むことは可能なのですから。その悪意を持ったプログラムをどう見つけ出して排除するのか?個人やディーラーに対するのと同じ基準で公平に処分する体制を作ること。この論点が重要なのだと思います。

ただし、この議論は取引所だけでは対処出来ません。何故なら彼らはPTSやダークプールなども駆使しながら発注・取消を繰り返しているのですから。

当局が問題意識を持って主導していく必要があるでしょうね。

ありがとうございます

いやあ、今はすごい事になっているのですね。
ご丁寧に、コメントありがとうございます。
恐縮です。
プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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