【ビジネス】オプションの醍醐味
先日触れたオプションの売りについて、簡単ではあるけれどシミュレーションをしてみた。
オプションの売りは勝率が高い(一般的に10回に9回は勝てるといわれる)。
一方で、たった一回の負けで積み上げた利益を吹き飛ばすとも言われる。
現値からより遠い権利行使価格を売っておけば「そこまではいかないだろう」という安心感を持つことが出来て余裕が生まれる…と考えるのが最も陥りやすい失敗例であり、オプション・ガンマの怖さを知らない素人的発想だ。
実際の価格で比較してみよう。
先週末の終値を元に仮想ポジションを作ってみる。
【シミュレーション①】
かなりニアではあるけれど14250円コール(プレミアム245円)と13750円プット(プレミアム160円)を20枚ずつ売ってみたことにする。
そのポジションによって得られる最大利益は490万円(コール)+320万円(プット)=810万円。
ただし、日経平均株価が14250円~13750円の間にSQである6月13日までおさまっているわけもなく、実際には山を動かす作業(権利行使価格の入れ替え)やヘッジ・コストが発生する。この試算はあくまで「机上の空論」だ。ポジション組成時のデルタは▲2.4。
【シミュレーション②】
ディープアウトである15500円コール(プレミアム11円)と12500円プット(プレミアム20円)を売ることにする。ただ20枚しか売らなければリスクは大幅に軽減されるが、そうなるとこんなに安いプレミアム(オプション価格)を売るために当たり前のことだが最大利益は62万円と大きく減少してしまう。そしてよく陥りがちなのがプレミアムが安い分、枚数を売ろうとする行為だ。試しなので最大利益の金額をより近づけるために15500円コールを350枚、12500円プットを210枚売ってみる。同ポジションの最大利益は385万円(コール)+420万円(プット)=805万円。ポジション組成時のデルタは▲3.5。
これは超ど素人的発想を元に期待収益金額に合わせてディープ・アウトの売り枚数を膨れ上がらせている。
「これぐらいは稼ぎたいから枚数売っておこう」
「権利行使価格が遠いから枚数売っていても安心」
これはオプションのリスクをちゃんと理解していない人が陥りがちな錯覚。実際に巨額損失を出したケースのほとんどがこの発想によるポジションが原因となっている。
添付の表はそれぞれのポジションの損益推移を示している。
シミュレーション①の場合
日経平均株価が
800円上昇した際の損失は▲731万円。
2000円急騰した際の損失は▲2897万円。
800円下落した際の損失は▲914万円。
2000円急落した際の損失は▲2498万円。

シミュレーション②の場合
日経平均株価が
800円上昇した際の損失は▲3451万円。
2000円急騰した際の損失は▲2億7766万円。
800円下落した際の損失は▲914万円。
2000円急落した際の損失は▲8743万円。

ポジション組成時のデルタはそれほど大きく変わってはいないのに指数が大きく動いた際の最大損失はここまで極端に変わってくる。その違いはどこから生まれてくるのか?それがガンマだ。
そのガンマ・リスクを無視もしくは軽視したポジションを取ってきた投資家が「そこまではいかないだろう」と思っていた水準まで指数がいってしまったときに巨額損失を出している。
実際に指数がそこまでの急変動を起こせばボラティリティも急上昇する。この想定損失に加えてベガ(ボラティリティの変動による損益のブレを示す)でも大きな損失が加わるだろう。さらに市場の流動性の問題がそこに加わる。アウト・オブ・ザ・マネーであればそれなりに板も枚数が出ていてこなせるが、それが一気にアット・ザ・マネーやイン・ザ・マネーになれば板は一気に薄くなり流動性は枯渇する。そこにポジションを閉じようと安易に踏みにいけば、それこそとんでもない値段で踏む羽目になるだろう。それが東日本大震災のときに起きたことだ。流動性のないイブニング・セッションで強制的にロスカットをされたため、イブニング・セッションのオプション市場ではとんでもない値段がついていた。
やったことはないが、シミュレーション②のようなポジションを組成して巨額損失を出すような場合、指数が急速に下がっていく→雪だるま式に損失が膨れ上がる→ポジションを入れ替えようにも流動性の問題や追証が間に合わなくなっていくため身動きが取れなくなる→神に祈る→神に見捨てられるという構図だろう。
「そこまではいかないだろう」ではなく、「そこまでいくかもしれない」と考えて、そのときに動ける余裕を保持しておくことが身を守ることになる。そんな基本的なことすら伝えずに安易にディープ・アウトの売り推奨しているような人は申し訳ないがプロとは思えない。難しいと感じるかもしれないけれど、オプションの醍醐味はそんなところにあるのではない。
先日挙げた巨額損失の事例のほとんどがこういったガンマ・リスクを軽視した売りポジションを取っていた。
権利行使価格の近いところを売って、市場の変動に合わせて山を動かし(権利行使価格を入れ替える)、時に先物などを使ってデルタヘッジを行っていく方がよっぽど潜在的リスクは少ない。それをしっかりとコントロールするためには相場見通しや分析、それに合わせた的確な入れ替えなどのスキルが求められるが。
一方で、オプションはその使い方をしっかりと学べばとても有用な商品だ。上がってもヨシ、下がってもヨシ、動かなくてもヨシ、現物のポートフォリオに対する保険としても使える。その取扱い説明書をしっかりと学びさえすれば自分の相場観やポジション状況に合わせた使い方ができる。
ぜひオプションを一度しっかりと勉強してみてほしい。
オプションの売りは勝率が高い(一般的に10回に9回は勝てるといわれる)。
一方で、たった一回の負けで積み上げた利益を吹き飛ばすとも言われる。
現値からより遠い権利行使価格を売っておけば「そこまではいかないだろう」という安心感を持つことが出来て余裕が生まれる…と考えるのが最も陥りやすい失敗例であり、オプション・ガンマの怖さを知らない素人的発想だ。
実際の価格で比較してみよう。
先週末の終値を元に仮想ポジションを作ってみる。
【シミュレーション①】
かなりニアではあるけれど14250円コール(プレミアム245円)と13750円プット(プレミアム160円)を20枚ずつ売ってみたことにする。
そのポジションによって得られる最大利益は490万円(コール)+320万円(プット)=810万円。
ただし、日経平均株価が14250円~13750円の間にSQである6月13日までおさまっているわけもなく、実際には山を動かす作業(権利行使価格の入れ替え)やヘッジ・コストが発生する。この試算はあくまで「机上の空論」だ。ポジション組成時のデルタは▲2.4。
【シミュレーション②】
ディープアウトである15500円コール(プレミアム11円)と12500円プット(プレミアム20円)を売ることにする。ただ20枚しか売らなければリスクは大幅に軽減されるが、そうなるとこんなに安いプレミアム(オプション価格)を売るために当たり前のことだが最大利益は62万円と大きく減少してしまう。そしてよく陥りがちなのがプレミアムが安い分、枚数を売ろうとする行為だ。試しなので最大利益の金額をより近づけるために15500円コールを350枚、12500円プットを210枚売ってみる。同ポジションの最大利益は385万円(コール)+420万円(プット)=805万円。ポジション組成時のデルタは▲3.5。
これは超ど素人的発想を元に期待収益金額に合わせてディープ・アウトの売り枚数を膨れ上がらせている。
「これぐらいは稼ぎたいから枚数売っておこう」
「権利行使価格が遠いから枚数売っていても安心」
これはオプションのリスクをちゃんと理解していない人が陥りがちな錯覚。実際に巨額損失を出したケースのほとんどがこの発想によるポジションが原因となっている。
添付の表はそれぞれのポジションの損益推移を示している。
シミュレーション①の場合
日経平均株価が
800円上昇した際の損失は▲731万円。
2000円急騰した際の損失は▲2897万円。
800円下落した際の損失は▲914万円。
2000円急落した際の損失は▲2498万円。

シミュレーション②の場合
日経平均株価が
800円上昇した際の損失は▲3451万円。
2000円急騰した際の損失は▲2億7766万円。
800円下落した際の損失は▲914万円。
2000円急落した際の損失は▲8743万円。

ポジション組成時のデルタはそれほど大きく変わってはいないのに指数が大きく動いた際の最大損失はここまで極端に変わってくる。その違いはどこから生まれてくるのか?それがガンマだ。
そのガンマ・リスクを無視もしくは軽視したポジションを取ってきた投資家が「そこまではいかないだろう」と思っていた水準まで指数がいってしまったときに巨額損失を出している。
実際に指数がそこまでの急変動を起こせばボラティリティも急上昇する。この想定損失に加えてベガ(ボラティリティの変動による損益のブレを示す)でも大きな損失が加わるだろう。さらに市場の流動性の問題がそこに加わる。アウト・オブ・ザ・マネーであればそれなりに板も枚数が出ていてこなせるが、それが一気にアット・ザ・マネーやイン・ザ・マネーになれば板は一気に薄くなり流動性は枯渇する。そこにポジションを閉じようと安易に踏みにいけば、それこそとんでもない値段で踏む羽目になるだろう。それが東日本大震災のときに起きたことだ。流動性のないイブニング・セッションで強制的にロスカットをされたため、イブニング・セッションのオプション市場ではとんでもない値段がついていた。
やったことはないが、シミュレーション②のようなポジションを組成して巨額損失を出すような場合、指数が急速に下がっていく→雪だるま式に損失が膨れ上がる→ポジションを入れ替えようにも流動性の問題や追証が間に合わなくなっていくため身動きが取れなくなる→神に祈る→神に見捨てられるという構図だろう。
「そこまではいかないだろう」ではなく、「そこまでいくかもしれない」と考えて、そのときに動ける余裕を保持しておくことが身を守ることになる。そんな基本的なことすら伝えずに安易にディープ・アウトの売り推奨しているような人は申し訳ないがプロとは思えない。難しいと感じるかもしれないけれど、オプションの醍醐味はそんなところにあるのではない。
先日挙げた巨額損失の事例のほとんどがこういったガンマ・リスクを軽視した売りポジションを取っていた。
権利行使価格の近いところを売って、市場の変動に合わせて山を動かし(権利行使価格を入れ替える)、時に先物などを使ってデルタヘッジを行っていく方がよっぽど潜在的リスクは少ない。それをしっかりとコントロールするためには相場見通しや分析、それに合わせた的確な入れ替えなどのスキルが求められるが。
一方で、オプションはその使い方をしっかりと学べばとても有用な商品だ。上がってもヨシ、下がってもヨシ、動かなくてもヨシ、現物のポートフォリオに対する保険としても使える。その取扱い説明書をしっかりと学びさえすれば自分の相場観やポジション状況に合わせた使い方ができる。
ぜひオプションを一度しっかりと勉強してみてほしい。