【市場雑感】HFTは本当に市場の流動性を増加させたか?
東証一部売買代金が低迷しています。
一兆円すら割り込む状態が目立つようになってきました。
HFTが入っている状態でこの売買代金というのはかなりひどい印象です。
値幅も小さくなり、市場は活力を失っている状況。
添付のグラフは1990年からの売買代金推移と日中の値幅を示したもの。
1990年代の売買代金は2000億円とか3000億円とかいう時期もあり、非常に少なく感じられます。
が、この時代は手動での売買が主であり、顧客も電話で注文のやり取りをするようなアナログな時代でした。
値動きは活発で少なくても200円~300円程度は動いていました。
売買代金が急速に増え始めるのは1999年頃から。
ITバブルという相場の盛り上がりに加え、IT革命により売買インフラが様変わりし、ディーラー・トレーダーのみならず、顧客までもがオンラインで容易に売買が出来る時代になりました。
売買代金の底上げという意味ではインフラの変化が大きく寄与しています。
そして株ブームと呼ばれた2005年後半~2006年。
ネット証券の台頭により、デイ・トレーダー(専業ディーラーなどとも)と呼ばれる個人投資家が急激に増加し、証券ディーラーの数も増加しました。
その運用の中心は日計りを主とした短期運用。
一日の間に売買を繰り返す短期市場参加者の急増により売買代金は急激に増加。
売買代金は一時3兆円を超えることすらありました。
一方で、1990年代に比べて起きた変化の一つのして『ボラティリティ(変動)の低下』があります。
その要因としてはいくつか挙げられますが、
一つは機関投資家の運用がアクティブ運用からパッシブ運用へと変化していったこと。
バブル崩壊で大きな損失を被り、リスクを嫌った投資家・運用者は自身の相場見通しなどでリスクを傾けるアクティブ運用から指数連動型のパッシブ運用へとそのポートフォリオを変化させていきました。
そして銀行なども1990年代後半に起きた拓銀や山一証券の破たんといった問題から株式運用でのリスクを抑制し、自己資本規制などもあって市場リスクに対して非常に保守的になっていきました。
そういった意味では国内市場で大きくポジションを傾けるリスク・テイカーが少なくなっていったといえます。
もう一つの大きな要因は市場参加者の運用スパンの短期化です。
ディーラーやデイ・トレーダーなど日計りを主とした参加者の増加が、結果として市場のトレンドを抑制することになりました。買ったらすぐに売ることを考えるような参加者ばかりであれば当然っちゃあ当然ですが…(^^ゞ
国内市場参加者の中で、機関投資家の保守的な運用へのシフトと極端な短期運用への偏りが売買代金はそれなりにあるものの、値幅やトレンドが出づらいという状況につながっていったのです。
一方で、主役は外国人投資家になっていきました。
外国人投資家の売買シェアはすでに6割を超えてきています(日本人でも海外から売買をすると外国人扱いになるので全てが青い目の外人ではありませんが)。
しかし、彼らにとっては日本市場は主たる市場ではなく、母国市場やグローバル運用をやるうえでのポートフォリオの一部に過ぎません。特に時間帯という面でも彼らが積極的に場中にアクションを取ることは少ない。
結果として海外市場が上がれば外人買いで日本市場も上昇するものの、日本時間帯で独自の動きが出ることは少なくなりました。
そしてその傾向をさらに悪化させたのがアローヘッドの稼働です。
取引所システムの執行速度が急速に速くなり、それを利用してHFT(超高速売買)を行う市場参加者のシェアが急激に増加しました。
しかし、売買代金は大して増加していません。
そして市場のボラティリティはより低下傾向にあります(震災の時を除いて)。
HFTが悪だとは思いません。
市場環境の変化、テクノロジーの進化を利用して収益を上げることは合理的な話だと思います。
しかし、過当な数量の発注・キャンセルを頻発させており、結果として市場の価格や板情報への信頼低下を招き、多くの市場参加者がこの市場から去っていきました。
日経平均株価の水準も気にしないような無機的な売買を繰り返す市場参加者ばかりで市場が活力を取り戻すとは到底思えません。
多様な市場参加者がいて、リスクテイカーがいて始めて市場は動き、出来高も健全に増加していく。
欧米ではHFTへの規制が強化されつつあります。
日本はその監視・規制が非常に脆弱です。
MiFIDⅡによる規制強化もあり、今後彼らは規制の甘い日本市場により注力するでしょう。
アローヘッドの稼働は2010年4月です。
HFTの市場参加率の増加によって流動性が増えたかどうか…今一度よくその功罪を考えるべきときなのではないでしょうか?