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【ビジネス】一つの業界が消えゆく姿

添付の表(画像)を見てみて欲しい。




しがないディーラーのブログ



日本商品先物取引協会が公表している商品先物の登録外務員数の推移だ。

平成17年度まで14000人台を維持していたものが、平成23年度1月時点で2450人まで実に6分の1まで急減している。急速に減少を始めたのは平成18年度(2006年)。



昨今、国内商品先物取引所が苦境に陥り、単独では生き残れないという見方から総合取引所構想が示されて各国内取引所はその方向へと進んでいる。

そりゃこれだけ外務員が激減し、市場参加者が減っていればそれは苦しくなって当たり前。



これはTOCOMの売買高推移(同取引所ホームページより抜粋)

合計売買高

1992 13,585,379

1993 21,557,795

1994 30,481,313

1995 35,125,427

1996 27,560,154

1997 30,178,349

1998 43,589,723

1999 48,442,161

2000 50,851,882

2001 56,538,245

2002 75,413,190

2003 87,252,219

2004 74,511,734

2005 61,814,289

2006 63,686,701

2007 47,070,169

2008 41,026,955

2009 28,881,948

2010 27,636,367

2011 31,670,031



こちらも2006年を境に急速に減少し始めている。



この年に何が起きたのか?

『金商法(それまでの証券取引法)』の改正だ。



本来、商品先物取引においては商品取引所法で規定されるところによるはずだが、営業における勧誘方針などについてはかなり細かいところまで規定されていることもあって、実質的に業界にはかなり大きな影響を与えた。



一昔前、商品先物業界の営業がかなりエゲつないという話はよく聞いていた。

商品先物取引で損をした顧客の話もしょっちゅう聞いたし、かなり強引な営業手法なども知られるところだった。

自分はその現場を知らないので実際どうだったかまでは分からないけれど、商品先物会社から証券会社へと業態転換した会社に一時所属したことがあった。

そこの営業はそれまで知っていた証券営業よりもはるかに激しく厳しい世界だった。ある意味『軍隊』。彼らの必死さやとんでもなく厳しい中でも電話をかけ続ける姿勢には驚きと感心を感じた一方で、それは少し呆れるほどのものだった。



金商法は『投資家保護ルールの徹底と利便性の向上や、金融市場の透明化、国際化を促す目的』で施行された。



それ自体の考え方・理念は決して間違えてはいないと思う。

ただ一方で業界はそれによるコンプライアンス管理の複雑化、コスト上昇、法令違反リスクの増加などに戦々恐々とし、多くの商品先物会社が撤退していった。



自分はあくまで運用者の立場で仕事をしてきたから、その辺の実態を十分知っているわけではない。

金商法の影響が具体的にどれぐらいあって、そして業界がどう変化していったのかを正確に伝えることは自分には出来ないので、それはそういった現場にいた方々にお任せする。



しかし、商品先物業界の衰退、商品先物会社の相次ぐ撤退、そして表にあるような外務員の急減、取引所の出来高減少…これらが金商法の改正をきっかけにして生じたことは紛れもない事実だ。



それまで業界に問題が多かったことも確か。

もっと自主規制においてしっかりとやるべきことはあったのかもしれない。

ただ投資家保護、顧客保護の観点から一方的に規制を強めれば、それは業界の活力をそぐことにもつながっていくということを理解してほしい。



規制を強めれば、それだけコンプライアンスやリスク管理に厳格な体制が要求され、コストも上昇する。

結果として、新しいことへの取り組みなどが出来なくなっていき、業界は衰退していく。

日本の商品先物業界の外務員数を見る限り『一つの業界が消えゆく姿』にすら感じられる勢いの減少速度だ。



証券業界はまだそれよりもはるかに規模は大きく、市場も大きいが、それでも多くの人間がこの業界から去っていっている。

東証・大証の合併を契機に廃業する地場証券も多数に上るだろう。

そしてその多くがディーリングを中心に経営を維持している。

つまりディーラーがそれだけ一気に減少する危険がある。

一人のディーラーが一日にどれほどの金額の売買をしているかを考えれば、それは取引所の出来高にも少なからず影響を及ぼすだろう。

商品先物市場で起きていることは決して他山の火事ではない。



今回のAIJ投資顧問が起こした事件によって規制強化の動きは強まる可能性が高い。

しかし、その前に考えて欲しいことがある。



投資家サイドにはただの被害者なのか?

自分の大切なお金(今回は特に年金加入者の将来を守る大切なお金)を預けるにおいてもっと考えるべきこと、学ぶべきこと、知るべきこともあったのではないか?



本質的に『投資は自己責任』によるもの。

確かにAIJ投資顧問のように与えられる情報自体が作為的に操作された場合は騙されるのもしかたない面もあるかもしれない(というかすでに詐欺行為だし)。

しかし、それは投資家サイドの努力や意識次第で防げなかったものなのだろうか?

(多くの人のお金を預かる立場の)年金運用者であるならばそれはプロであるべきだし、プロならば最低限のデューデリジェンスは行って然るべしだったのではないだろうか。

実際に専門知識を持つ方々から聞いた話では数年前からそういった懸念はあり、かかわりを持たないようにしていたという話も聞く。



十分な知識のない個人投資家(特に老人など弱い立場の方々)を保護するのとは訳が違う。

機関投資家や資本家は運用者にとっては神様だ。

通常、立場は彼らの方が圧倒的に強く、お金を預け続けていただくために運用者(運用会社)側は必死に結果を出そうとするし、結果が出なければ頭も下げる。



『投資家保護』の観点から運用会社に様々な規制を設け、経営コストを上げるようなことをすれば、日本の運用ビジネスはさらに遅れていく。

すでにシンガポールや香港にアジアの金融センターの立場は奪われている。

日本の投資家の資金で日本人が日本市場で運用する運用会社ですら、多くがシンガポールや香港に拠点を構えている。



彼らの中には日本に戻ってやれるならやりたいと思っている人もいっぱいいる。

しかし、法規制の厳しさやコストの高さ、税金の高さなどの理由でそれが出来ないという人が少なくない(少なくとも規模の小さなベンチャーファンドでは)。




この春に金融庁は新しい運用会社のスキームを施行する。

それはこれまでに投資一任業に比べればはるかに実用的なものだと思うし、日本の金融ビジネス活性化に一役買うはずのものだった。

その流れが今回の事件で止まってしまうようなことがないことを心より願う。



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プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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