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【相場雑感】逆境の乗り越え方

ディーラーという仕事をしていると、何度も苦しい局面に追い込まれることがある。




『もうダメなんじゃないか…。』




夜も眠れなくなり、一人で部屋にいてもジッとしていられず、怒鳴ってみたり、壁を力任せに叩いてみたり…。


負けたことが悔しくて…

損失の額におびえて…

自分自身にいら立って…

もう取り返せないのではないかという不安にさいなまれて…




そういった逆境に陥ることは何度もあるだろう。

でもそれは成長へのチャンスにもなる。

ただ問題はその逆境とどう向き合い乗り越えていくか。




自分自身のディーラー人生の中で一番苦しかったのは月間で3千数百万の損失を出したとき。

多分、一生忘れることは出来ない…イラクのフセイン大統領が捕縛されたときの出来事だ(2003年12月)。




その月は出だしから調子が悪かった。

焦りが自分の中にあり、コントロール(3つの『C』のうちの一つ)を失っていた。

何をやってもうまくいかない。

タイミングもかみ合わないし、ちょっと取り返してもつまらないところで大きくロスを出す。

そして苛立っているところにシステムトラブルで思わぬ損が出た(板の配信情報が遅延し、9分ほど前の板情報で売買していたため▲800万以上のロスが出た)。

月半ばで▲1800万円ぐらいまで損が拡大し、取り返そうという焦りが自分を支配していた。

その頃の月間損失限度額は▲4000万円。

まだ余裕は残されているはずだった…。




そのときに流れた『サダム・フセイン捕縛』のニュース。

自分にとっては『取り返すチャンス』。

月曜日はスタートから全力で勝負にいった。


当時は先物だけではなく、現物株もかなりやっていた。

目いっぱいフルショットで勝負にいった。

当時、短期運用者の多くがやっていた銀行株を片っ端から買ってフル・ロング(全力で買い)。

先物もロング(買い)で攻めた。


先物で実現益+400万ぐらいを確保し、現物株の買いポジションは+800万円ぐらいの評価益を確保していた。


『プラ転(損を取り返してプラスになること)まであと少し…。』

『今晩の米国株式市場もフセイン捕縛を好感して大幅に上昇するだろう。』


自分は現物株の買いポジションを全てオーバー・ナイト(翌日に持ち越す)にした。


米国市場は大幅上昇でのスタート。

寄りついてみるみるうちに100ドル以上の上昇をみせたNYダウ。

自分は安心して眠りについた。


しかし、翌朝…

NYダウは下落に転じていた。

前日の日経平均株価は300円以上の上昇。

それもフセイン捕縛のニュースでNYダウが大幅上昇することを見込んでの上昇だった。


その期待は裏切られた。


翌朝、死刑台にでも上るような気持ちで会社に行きポジションを投げる(損切る)ところから一日が始まった。

全てのポジションを閉じたとき、その損失は3395万8千円にまで膨れ上がっていた。

つまり前日の状態から一晩で▲2800万円も悪化したことになる。


目の前が真っ暗になった。


それまでの自己ワーストの損失は▲1881万8千円。

それを大幅に上回る損失を出してしまった。

ボタンを押す指が震えて、自分がしたことに怯えた。

苦しくて、怖くて…。




でもそのときの上司・会社は自分を責めはしなかった。


『十分これまで頑張ってくれているんだから焦らないでいい。』


と言ってくれた。


それが大きな救いになった。




月間損失限度額まではあと600万円ほど残されている。

損を取り返したかった。

早くこの苦しさから逃れたかった。


でも自分は上司のところへ行きこう言った。




『今回の自分のトレードを振り返って、本来の自分ならしないようなリスクの取り方をしていました。損を取り返したいという焦りから自分を見失っていたと思います。月間損失のままで申し訳ありませんが、自分自身を見つめ直すために時間をいただけないでしょうか?』




そしてその月の取引を全面的にストップした。


毎日会社に行き、シミュレーション(仮想取引)を繰り返した。

自分の何が悪かったのか、自分のどこに隙があったのか、自問自答を繰り返した。


その月はほとんど眠れなかった。

ベッドに入っても何度も目を覚ます。

不安や悔しさで押し潰されそうだった。




でも相場が悪いわけではない。

損を出したのは全て自分に原因がある。

間違えたのは自分なのだから。

そこを修正出来るまで苦しみもがくしかない。


損を取り返して楽になりたい気持ちは山々だった。

でもそれはあくまで自分の都合に過ぎない。

戦場で間違いを犯し、追い込まれるような損失を出した。

その原因は自分にある。

それを見つけ、修正出来るまでは勝負するべきではない。

少なくとも『損を取り返したい(=楽になりたい)から』という気持ちで過剰なリスクは取ってはいけない。

自分にそう言い聞かせ続けた。




* * * * *




伏線は前々月までにあった。

10月までそれなりに調子がよかった自分。

チーム最年少ながらトップを争う位置にいて、ITバブル以来の月間過去最高益更新すら視野に入りつつあった。

そしてずっと越えたいと思っていた月間1億円の大台に乗せたいという意気込みで攻め続けていた。


しかし、それが慢心を招いた。

トレーディングが雑になり、大振りになり、コントロールを失っていった。

それが11月。

その月の売買益はわずか+138万1千円。

当時の自分からすれば儲かっていないも同然だった。

そして焦りが生まれた。

その焦りを抱えたまま12月に入り、トレードはどんどんおかしくなっていった。




その焦りが先に書いたような失敗につながり、取り返したいという焦りから過剰なリスクを取った。

特に夜間取引の出来ない運用環境の中で大きなオーバーナイト・リスクを抱え込んだ。

これはただ『プラスに浮上したい。』という自分自身の焦りからとった行動だった。

いいときの自分なら多少は残しても半分は利益を確定し、損益のコントロールを意識していただろう。

少なくともその時点でもまだ月間マイナスだったのだから…(大きくプラスが残せている状況ならそういうリスクテイクもアリだと思うが)。




* * * * *




失敗の原因は全て自分の中にある。

相場が悪い、相場のせい…では絶対にない。

フセインが捕まったのに上昇しなかったNYダウがおかしい…のではない。

それを期待して+300円以上も上昇していることを冷静に考え、ある程度の利益確定をしていかなかった自分に隙があった。




そのあと損を取り返したいという焦りと向き合い、苦しい時間が流れた。

1月に入ってコツコツ取り返そうとしたが、当時所属していた会社が処分を受けたため2週間の売買停止。

損を抱えたまま何も出来ないことに苛立ちは増すばかりだった。

その翌月もその焦りや苛立ちをコントロールしきれないまま一ヶ月が過ぎた。

本当に苦しい3か月だった。

ようやく自分自身のコントロールを取り戻せたのは期末の3月だった。

損を全部取戻し、プラスを出すことができた。

これがその前後のトラック・レコードだ。




Jan-03 +27,713,000

Feb-03 +7,813,000

Mar-03 +1,509,000

Apr-03 +15,384,900

May-03 +15,230,500

Jun-03 +67,550,000

Jul-03 +77,528,000

Aug-03 +37,513,000

Sep-03 +50,232,000

Oct-03 +50,348,000

Nov-03 +1,381,000

Dec-03 -33,958,000

2003年年間収益 +318,244,400

Jan-04 +7,269,000

Feb-04 -2,671,000

Mar-04 +43,295,000




長く苦しい時間だったけど、自分の中の焦りや苛立ち、苦しさと向き合い続けた3ヶ月は無駄にはならなかった。

確実にその3ヶ月で自分の強さは増したと思う。




その3ヶ月があったから、その後月間▲6000万円以上の損失を出したときもコントロールを失わずに翌月に取り返せた。

当時の後輩たちからは


『〇〇さん、そんだけ損出してなんで冷静でいられるんですか?』


と何度も言われた覚えがある。

冷静ではなかったんだけどね…でも乗り越えるために、自分のコントロールを取り戻すために必要なことが分かっていたから。




もし丁半博打で大勝負に出て一気に取り返せていたとしても、きっとそんな強さは身につかなかっただろう。

恐らくその後も苦しくなるたびに無茶をして、きっとどこかで取り返しようのない損失を出していたはずだ。




ディーラーなんてそんな簡単に強くなれるもんじゃない。

余程な天才でもない限り、一朝一夕にデカくなれるもんじゃない。

自分の弱さと向き合いながら、逃げずに、でも焦らずに一つ一つ乗り越えてようやく強くなっていくものなのだから。




自分はこれまで所属してきた会社で売買損益だけみれば損を出して終わったことはない。

十分なリスクを取れる環境がなく、期待ほど利益を残せなかったり、部や会社の運営経費をカバーしきれなかったことは2つほどあるが…。




売買損を出して会社を辞めるということ。

もし自分をプロの運用者だと思うのなら、そのことの意味を今一度しっかりと見つめ直してほしい。


人の金で丁半博打を打つような戦い方をしてはいけない。


特にその理由が自らの焦りであるならば、『(メンタル)コントロール』を失っている。

大きな勝負をするにはそれだけの裏付けを持ってしなければいけない。

利益が乗っているときと損失が出ているときの戦い方は違って当たり前。

それが『(P&L)コントロール』。




苦しさから逃げちゃいけない。

でも苦しくなったのは自分に原因がある。

それを謙虚に受け止め、正面から乗り越えてはじめてそれは力になる。




他人のお金で取っていいリスクとそうでないリスクがある。

大きな勝負をしている人たちはそれなりに会社に利益貢献してきた実績や裏付けがあるはずだ。

会社に損を与えている状況下ではやっていけないことがある。

それをして本人がクビになるのは構わない。

でもその損失は会社に残り、結果として残されたディーラーたちへの負担になっていく。




以前、ある解説者の方から




『ディーラーはレベルが低い。』




と言われたことがある。




デイ・トレーダーの知人からも




『ディーラーって人の金だからやれてるだけですよね?自分の金で勝負しているオレらの方がよっぽどプロなんじゃないっすか?』




と言われたことがある。


すごく残念だったし、悔しかった。

自分はこの仕事が好きだし、感謝しているし、誇りも持っている。

他人様のお金を預かり、リスクを取り、リターンを上げていく…その責任の重さをしっかりと受け止めながら、その責任を果たしてきたつもりだったから。


プロの運用者として胸を張れるディーラーであるためにどうあるべきなのか、それを今一度考えてみて欲しいと思う。




長々と書いてしまったけど、昨日の部下の件で色々と思うところがあったので…。

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プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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