【相場雑感】焦りばかりが…
こういう上昇相場になってきたとき地場証券のディーリング部門でよく起きること。
『なんでこんなに相場が上がっているのにそんなに儲かっていないんだ?』
そういうセリフをマネジメントがぼやく。
これは自分自身が見ているディーリング部の運用手法を理解していない証拠。
相場が上がる=儲かる
なら
相場が下がる=損する
それはロング・オンリーの運用をやっている場合だ。
ほとんどの日系証券会社では日計りを中心とした短期運用をやっている。
そういった運用の場合、その収益は短期のボラティリティや出来高に比例する。
相場が上がったから儲かって当たり前という話ではないのだから。
中長期でポジション引っ張れるところはまだそれなりに数字を伸ばしているだろうが、そういった体制が出来ていないところはそれほどは伸びていないはず。
こういった状況ではディーラーの多くも自身の中に焦りが生まれる。
『相場が上がっているのに取れていない。』
『もっと儲けないと。』
その結果、焦りからつい高値で手を出して押し目で投げたり、ついロットがでかくなって大振りになり思わぬロスが出てしまったり…。
短期運用においては『リズム』が最も重要。
自分自身のメンタル・コントロールさえしっかり出来ていれば、相場が活況になり出来高やボラティリティが増えてくれば焦らずとも収益機会は活かせるはず。
ただ『乗り遅れた』という焦りからリズムを狂わせるとこれは最悪の結果につながっていく。
周囲が儲かっているのに自分が儲かっていない→なんとかしないとと焦る→焦りからポジションを取っているからコントロールを失う
短期運用の強みは下げ相場でも上げ相場でも一定のリターンを出し、最小限のポジション・リスクと資金効率にある。冷静にコントロール出来ていれば市場が活況になり、出来高・ボラティリティが増加するに従いそれなりには収益も伸びていくはず。
マネジメント側の人間もそれを十分理解し、変に運用者にプレッシャーを与えないこと。
そしてこういった相場でしっかりとチーム収益を伸ばしたいのなら運用手法(ストラテジー)の多様化をチーム内で推し進め、それを管理できるだけの体制を構築することがマネジメントの仕事。
・月末ポジションゼロにしなければならない。
・オーバー・ナイト禁止。
・個別ポジションで一定比率評価損出たらロスカット。
・オプションは難しくて危ないからやらせない。
・夜間取引は出来ない。
・海外ものや他商品ができない。
こういったことは全てマネジメントの力不足によるもの。
自己資本規制比率が十分に高いのに過度にリスクを抑制させて運用をしばったりするのは間違いだし、十分な資金力はないが優秀な運用チームを持っているのなら運用会社化して他から運用資金を受け入れればいい。
個別ロスカット・ルールなんてひと銘柄で買うか売るかしか考えないやり方でしか通用しない(挙句の果てにナンピンして簿価下げたり、手前で切って買い直せばOKとかナンセンスなところもある)。それではロング・ショートや何らかのストラテジーを元にポジション・トレードすることは出来なくなる。
夜間取引が出来ないということは夜間に何か起きてもリスク・ヘッジが出来ないということ。つまりオーバーナイト・リスクは取りづらくなり、運用者も自ずと日計りに偏っていく。
海外ものや他商品も含めてグローバル・マネーは流れている。その中でいつまでも日本の小さな器の中でだけ戦わせても大きな視点を持った運用者は生まれない。
地場証券のディーリングが低迷し、追い込まれてきたのはディーラー自身のスキルの低下やアローヘッドのせいだけではない。
恐らくマネジメントが企業や部門としての努力を怠ってきたのが最大の要因だと思う。
『あれは出来ない、これは出来ない。』
ではなく、どうすれば出来るのかを考えるのがマネジメントの仕事。
それを多くの日系証券は放棄してきた。
先日のセミナーで講師の方が使っていたダーウィンの進化論。
『最も強いものや最も賢いものが生き残るのではない。最も変化に敏感なものが生き残るのだ。』
この言葉を今一度マネジメントのみなさんが認識する必要があるのではないだろうか。
儲からなくなったのをアローヘッドのせい(環境の変化のせい)にするのは間違い。
その変化に適応するべく努力し、自らを変化させられるもの(=進化)が生き残る。
変化のせいにして努力を怠るものは淘汰されるのみ。
そして自分自身の部門の運用手法(ストラテジー)をしっかりと理解し、分析し、相場が上がっているのにそれほど収益が伸びないと安直な考えで運用者に妙なプレッシャーを与えないようにしてほしい。
もし日計り主体でやらせていてそのセリフが出てくるのなら、それはあなたが自分の部下たちの運用手法を理解していない証拠ですから。
そしてそういう状況が嫌ならもっと異なる手法を実現できる環境と人材を得ることこそがあなたの仕事なのだと思います。