【ビジネス】日本の運用者が進むべき道とは(MarketForum第一回セミナー②)
かつて証券ディーラーはその圧倒的な環境の優位性を持っており、それによって多少ヘタクソでもそれなりに稼げてしまいました(言い方悪いですが…でもホントにヘタクソだとさすがにダメですよ(^^ゞ)。
個人であれ、法人であれ、顧客は証券会社の担当者に電話をして、注文状況(バイカイ)を聞き、それから注文を出す。
一方で、証券自己はどんなに遅いシステムであれ、リアルタイムにバイカイを見て、自分の指で発注すればよかった。
つまり判断してから実際に発注するまでの時間はかなり優位な状況にあったといっていいでしょう。
今、思えば…儲かって当たり前だったのかもしれません。
それが時代の変化によって変わってきました。
インターネットの普及、ネット証券の台頭、システム(DMA)の発達…。
これらが証券自己の優位性を喪失させ、個人でも法人でもヘッジファンドでも証券自己とほぼ同等の情報を見て、判断し、遜色ないスピードで発注できる。
さらにはコロケーション(取引所に併設されたサーバー)やプロキシミティなどを活用して、資金力のある外資系や海外ファンド、HFTなどはディーラー以上に高速な環境を手にしました。
ミリ・セカンドからマイクロ・セカンドの世界へ。
我々が見ている価格情報はすでに過去のもの。
取引所のサーバーから配信され、我々の端末に表示され、それを認知するまでの間に、コロケーションに置いてあるプログラムは先回りで動いてしまう。
そして市場には隙間がなくなり、板カンや一カイ二ヤリといった旧来の手法は通じなくなっていった。
まず理解しなければいけないのは我々ディーラーを取り巻く市場環境が変化したのだということ。
そして問題になってくるのは…
その市場環境の変化に対応することが出来るかどうか。
よくアローヘッドやJ-GATEのせいで儲からなくなったというディーラーや経営者の方の声を聞きます。
儲からなくなったのをそれらのせいにするのは明らかに間違い。
時代の変化、技術の進歩とともに市場は変わります。
そしてシステムを高速化することで、高頻度売買(HFT)などに対応し、出来高を増やしていこうと国内取引所が行動することは、世界の取引所の状況から見ても遅かったぐらいです(ただシステム変更に伴う会員証券の設備投資負担についてはもっと取引所は考慮すべきでした)。
そのせいで儲からなくなった…ということは、環境の優位性がなければ儲けられないと言っているようなものです。
システムを変えた取引所に文句を言う前に、その変化に対応すべく自らを変えられないことが問題だと認識すべきでしょう。
一方で、実際に自らを変えることが出来るものなのか?という根本的な問題もあります。
日系証券の多くは呆れるほど保守的な管理体制、リスク管理、コンプラ管理に支配され、汎用性のない高コストなシステムに依存しているため、新しいことがほとんど出来ないという面もあります。
例えば、一銘柄あたりのロスカット・ルール。
ある会社では一つの銘柄を買って評価損が▲10%に達したら強制的にロスカットするというルールがあります。
確かにその銘柄が上がると思って、ただその銘柄を買うという行為をした場合(デルタを取りにいく運用に対して)はそのルールには合理性があります。
しかし、ロング・ショート(異なる銘柄の売りと買いを組み合わせる)など相場の方向性ではなく、それぞれの銘柄の割高・割安を取りにいくような運用をした場合にそのルールは適合しなくなります。
片方の銘柄で▲10%損失が出ていても、もう一方の銘柄で△15%の利益が出ていたらどうでしょうか?
ロスカットの対象になるのはおかしいですよね?
運用手法は様々です。地場証券が伝統的に得意としてきた一カイ二ヤリなど、そういった手法の一部に過ぎません。
でもそういった管理しかしたことがないから、ルールの変更もままならない。
結果、▲10%に達する前にクロスを振ったり、無駄な執行をして対処してまで頑張っている若手が何人もいます。
もう一つは夜間取引。日系証券のほとんどが夜間の売買に対応していません。しかし、外資系証券の多くは認可を受けたトレーダーは在宅でも売買可能です。金融庁の検査マニュアルには『在宅ディーリングはこうあるべき』という記述が明文化されています。なのに在宅ディーリングは出来ないと決めつけている。結果、日計りに偏った運用になり、昔からの一カイ二ヤリから脱却できなくなっている。
こんな話は呆れるほどいっぱい出てきます…。
外資系の人と話していると、『そんな環境でよくやってるねぇ…。』を同情されるような状態なのです。
過剰な管理・規制によって手足を縛られた状態で変化への対応を柔軟に出来ないまま、時代の変化の波にされされてきた。
それが日系証券の現実です。
結果として、ディーリング部門での収益は低迷し、アローヘッドのせいで儲からなくなったと経営者は諦め、そして撤退・閉鎖。運用をビジネスとして捉え、今後発展させていくという強い意思を持った日系証券の経営者はごくわずかです。
今、日本の市場は非常に『寒い』状況にあります。
そんな状態の市場で『日計りで稼げ』ということがどれほどナンセンスなことなのか…それを次回示したいと思います。