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【コラム】ベアリングス・ショック~阪神淡路大震災のときの動き

これは旅行の間にフィスコ『展望』のコラムに出したものです。
テーマは相場史に残る巨額損失事件である『ベアリングス・ショック』なのですが、阪神淡路大震災のときのチャートも載せていたので限定記事で取り上げました。


ベアリングス・ショック

 この事件が起きたのは1995年。舞台はシンガポール取引所(SIMEX、現SGX)。当時、ベアリングス銀行の先物取引責任者であったニック・リーソンは、日経平均先物を中心に目覚ましい収益を上げていました。学歴もない彼でしたが、アジアで頭角を現し、一時は同社の収益の一割近くも稼いだこともあるそうです。しかし、つまずきは部下が出した小さな損失の隠ぺいから始まります。その損失を隠すために架空取引口座を作り、そこに損失を隠したうえで、その損失を取り返すために規定違反となる自己取引を繰り返すようになります。当時は大証とSIMEXに上場されていた日経平均先物の市場間裁定取引をメインにやっていると言われていましたが、その損失をカバーするために徐々に無理なポジションを取るようになり、そのリスクはエスカレートしていきます。先物だけではなく、オプションでショート・ストラドルというポジションを大量に取っていました。このポジションは価格の変動が損失につながるため、彼は株価の下落を力づくでも支えようとSIMEXで日経平均先物を大量に買い続けました。


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 上のチャートはその時期の日経平均先物(SIMEX)を示したものです。20000円を割り込んだ後、19000円を維持していた日経平均株価でしたが、1月17日に発生した阪神淡路大震災をきっかけに流れが変わります。17日発生当初はそこまで大きな下落ではなかったのですが、その週末に震災の悲惨さが改めて伝えられ、週明けの日経平均株価は▲1054.73円安と暴落しました。ニック・リーソンはその下落に対して買い向かい続けたのです。そして指数はリーソンの予測通り、一時持ち直しかけるのですが、彼が本当に追いこまれるのはそこからでした。

この時期、異常な動きを示していた指標があります。『NT倍率』と言われるものです。これは日経平均株価÷TOPIX(東証株価指数)で算出される数値で、日経平均株価が割高になればこの数値は上昇していきます。そしてこの時期、その数値は上昇し続けました。
それは何故か?
ニック・リーソンがSIMEXで日経平均先物ばっかり買いまくったからです(^^ゞ 現物株が下落基調にあっても、それを受けてTOPIXが下落していっても、空気を読まずに『そんなこと知るか』と言わんばかりにSIMEXで日経平均先物を買い続けました。結果として、彼一人の売買が市場の需給を歪め、日経平均株価だけが下げ渋り、結果としてNT倍率の上昇を招いたのです。


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 そしてその頃、SIMEXでのベアリングスの日経平均先物への異常な買い方に、疑念の声が市場では広まっていました。『あそこの買い、絶対おかしいよ。』そんな言葉を当時の上司が言っていたのを記憶しています。
 当時、自分はまだ新人で、少額ながらもオプション取引を任せてもらっていました。NTはやっていなかったのですが、多くのディーラーが(割高な)日経平均先物売り(割安な)TOPIX先物買いで向かっていたのを記憶しています。
 そしてそのときが訪れます。SIMEXで異常な買いを続けていたニック・リーソンが2月24日(金)に逃亡し、その事件が明るみに出たのです。NT倍率は一気に下落しました。彼が大量に買い建て玉を持っていたのは日経平均先物でしたから、その処分売りが大量に出て(そしてそれを狙った売りも)、日経平均先物主導での急落につながったのです。
 終わってみればその損失は約▲8.6憶ポンド(約▲1380億円)。当時のベアリングス銀行の自己資本は750億円に過ぎませんでした(邦銀などに比べて自己資本は小さかった)。そうして1762年に創業された伝統ある名門投資銀行は、たった一人のトレーダーの不正取引でその歴史を閉じることになるのです。ちなみに同行はたった1ポンドオランダのINGグループに買収されています。
 参考までに、同年には米国大和銀行で生じた▲960億円(井口俊英氏による巨額損失)、2008年にはソシエテ・ジェネラルで生じた約7620億円(ジェローム・ケルビエル氏による巨額損失)など、その後もたった一人のトレーダーによって巨額損失が発生する事件は起きています。

 

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プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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