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【相場】難しい局面

普段、あんまり相場観についてはチーム内や投資家向け以外ではコメントしないんですが、あまりにもややこしい状況なので、なんとなく自分なりの考えを整理してみたいと思います。断定的な相場判断や見通し、何らかの推奨を期待される方はここで読むのをやめた方がいいかもしれませんw

今年、特にここしばらくの間は外国人投資家の売り基調が続いてきました。
諸々のデータを見るとヘッジファンドもかなりリスクを抑制し、CTAも積極的にショートに傾けている印象もあります。
一方で、自社株買いも高水準であり、需給的にはかなり「良好」と言っていい状態なんだろうと感じています。
需給環境の良さは9月初旬の戻り局面や、ここ数日の戻り場面での激しさにも表れているのでしょう。

今日も英国の減税策などをいったん取り下げたことなどにより混乱が収束するという期待から戻ったりもしていますが、自分は「英国の混乱は収束した」…というよりは、一通りの混乱は、政策の選択肢が非常に狭まっている現実を思い知らされた事象だと考えています。

日本を振り返っても、黒田日銀は金融緩和を続ける。結果、日米金利差に基づいた円安が進行すれば、財務省は為替介入でなんとか抑えようとする。日銀の金融緩和政策が持続され続けている状況が解消されない限りは、なかなか歯止めはきかないでしょう。様々な地域でアクセルとブレーキを同時に押しているような矛盾を感じる政策が見られます。政治・政策・金融政策が合理的かつ一貫性をもって現状に対応しきれなくなっている結果が、為替の動きや様々な場所で表れている気がします。

リーマンショック以降に続いてきた金融緩和政策と流動性供給。
2019年後半にその出口をFRBが模索しかけていたところに襲ったコロナ禍と、その緊急対応として行った思い切った金融緩和政策と流動性供給。その時期の各国中央銀行の資産膨張振りをみても、その規模が非常に極端なものであったことが見てとれます。
そして現在、with コロナ、そしてafter コロナに向けて、経済活動が大きく回復していく中で需要と供給のバランスが取れないまま加速するインフレ、それに脅かされる国民生活。政治が背負う課題と中央銀行が出来ることの限界。いかにこの状況を軟着陸させるかは、とても困難な課題であることは間違いありません。
これは中央銀行の政策ミスというよりも、様々な困難を金融政策によって支えてきた反動というべきなのかもしれません。

さらにその難易度を大きく上げているのが地政学的リスクの増大。
ロシアによるウクライナ侵攻、長引く戦争の中でアジアでも緊張や分断が高まりを見せています。

急激な米国の金利上昇やドル高は、様々なところで債券市場から生じてくるリスクを顕在化させます。
新興国や信用力の低い企業、今後は企業の破綻などへの懸念も増大してくるでしょう。
実際に物価高などによる企業倒産なども増えてきているようです。
そのあたりにマグマがたまってきている可能性はあるとみておいた方がいいでしょう。

全開に蛇口を開いていた流動性供給の蛇口が閉められていくことによって、「金余り」からより高いリターンを求めて動いていた資金の回転が効かなくなり始めています。
かつてビックリするような値段をつけていたNFTの価値剝落ぶりをみても明らかです。

リーマンショック以降、金融緩和政策が世界中で広まり、日欧にいたってはマイナス金利などという異世界まで飛び込んできた。
PE(プレイべート・エクイティ)などについても流行りのように巨額の資金が流れ込み、様々な新興企業の発展を促してきました。しかし、出口に辿り着けていない企業の多くは、今後評価額の引き下げをせざるをえなくなり、PEファンドなどでもそれなりのダメージが顕在化する可能性も高いでしょう。

株式市場の需給面だけでみれば、日経平均株価で25000円台は買い場とも感じますが、今後強まっていくであろう景気後退リスク、債券市場から発生しえる信用リスクなどが顕在化していくと、実体経済のダメージが表面化し、結果大きく水準を変えていく局面もありえるかもしれません。

リーマンショック以降の金融緩和政策と流動性供給は、市場の中央銀行政策依存度を高めてきたように思います。
しかし、急激に高まるインフレ圧力によってその拠り所を失いつつある、というのが現状でしょう。

インフレが短期で収束し、緩和的な政策への回帰が実現するのならば、リーマンショック以降の相場へのアプローチは有効であり続けるのかもしれません。しかし、リーマンショック以降続いてきた超緩和的な金融政策が(日本を除いて)正常化しつつある中で、大きな転換点を迎えている可能性は高い。今回はもう少し大きな視点、広い視野、長いスパンの中で市場を評価していかないと大やけどを負う可能性もそれなりに高まっている気がしています。

今年、マクロ系のファンドが比較的好調で、ミクロのファンダメンタルズに寄りがちなロングショートなどが苦戦している理由も、現在の相場はマクロ面から大きな変節の時期を迎えていることに起因しているといえるかもしれません。

ホント難しい局面です。

今、問題になっているのはインフレ。物価は需要と供給によって物価が決まる。今回のインフレは供給サイドに起因した側面が強い。でも中央銀行は金融政策によってインフレを沈静化させようとするならば、利上げによって需要減退を引き起こしてバランスを図る他手段がない。供給サイドが追い付かない原因は、コロナ禍の影響による人員不足、戦争による問題、国家間の断絶や分断、中国のゼロコロナ政策…など中央銀行の手の及ばないことにあるから。

でも急激なインフレによって国民生活が圧迫され、政治的にはインフレと戦う姿勢を示さなければならない。
中央銀行は需要抑制によるインフレ低下を実現しようとする一方で、政治は減税やお金のばらまきで困窮世帯を救済しようとする。ここでもアクセルとブレーキが混在する。

政治家も中央銀行の政策を担う人たちも、我々も経験したことがある人がほぼいないパンデミック後の世界。
手探りの中で様々な意見や考え方が交錯し、市場も不安定になっている。
確かなことは、今は市場の不確実性が非常に高まっているということだけ。

経済統計に一喜一憂し、経済統計の内容が悪いと景気後退→利上げが遠のくと勝手に期待して上がる株価、当局のコメントにショックを受けて大きく崩れる株価。その振れ幅もそれなりに大きくなっている。
一つ感じているのは、ショートカバー主体の戻りではなく、新規に資金流入するような形での上昇が実現されない限り、その戻りがいかに激しくみえても慎重であるべきだということ。短期的な値動きに踊らされないようにすることです。

ポジションを取っているとどうしても視野が狭くなりがちですが、一歩引いて大局を見るべき場面なのでしょう。
ここしばらくのアップダウンの激しい値動きの中で、自分の相場観がコロコロと変わるようなら、いったん引いて全体を見渡し、状況を分析し直したうえで、考えを整理する必要がある。
そうしておかないと不安定な値動きに踊らされて疲弊していくことになりかねない。

不確実性が高い相場環境の中で、どう戦うのか。
そんな局面にあっても、リスクを取らねばリターンは得られない。
運用の仕事ってなかなかタフな仕事だなと痛感します。
こういうときこそ戦術的な面でのリスクとの向き合い方や、ロスカットなど損失抑制のスキルが問われるのかもしれませんね。
プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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