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【運用ビジネス】ヘッジファンドの現実

「ヘッジファンド」

そう聞くと、なんか相場をすごく振り回していたり、投機的なことやったり、それこそ個人投資家を狙い撃ちにして苛めてる、みたいな印象を持たれる方も少なくない気がします。投機的で、相場を動かす怪しげな存在ってとこでしょうかw

なんか気に食わないことがあると「ヘッジファンドの売り仕掛け」とかよく言われますからね…。

実際にヘッジファンドを2019年に立ち上げ、様々なヘッジファンド業界の方とも知り合い、同業にも知り合いが沢山できました。ヘッジファンドのパートナーともいえるPB(プライム・ブローカー)や、アドミニストレーター、トラスティ、ファンドリサーチの方、法律関係の方…沢山の方々とお会いし、お話しし、自分自身も学んできました。

今日、たまたま見かけた幻冬舎さんのこのリンク

https://gentosha-go.com/articles/-/45780


ヘッジファンドの状況が的確に書かれていると思いますのでご紹介しておきます。
ヘッジファンドといっても、基本的には「ファンド」なので「投資信託」などと共通するところも多々あります。投資家から資金をお預かりし、リターンを返す。ただロングオンリー(買いだけ)に偏りがちな日本の投資信託とは異なり、海外では「ファンド」というと実に様々な商品、ストラテジー(運用戦略)が存在しています。また投資信託と同じように目論見書=PPMも存在していますし、どういった運用指針に基づいて運用を行うのか、リスク管理をどう行っているか、様々な要件についてそこには書かれています。そこに書かれている内容は投資家との約束事なので、絶対に守る必要があり、それに基づいて運用を行っているのも投資信託と同じです。


株のヘッジファンドについては、ロングショート戦略(売りと買いを組み合わせる)が主流といっていいでしょう。特に日本のエクイティについてはそうだと思います(リサーチ会社ではないのであくまでも自分が知る範囲ですが)。


日本の投資信託との大きな違いはこのリンク先で使っている言葉をお借りすると「絶対収益」を追求することが求められるということです。

上げ相場で儲かるのは当たり前、下げ相場でも、動かない相場でも、安定したリターンを追求しなければならない。そのためにはロング(買い)だけではそれを実現できないので、ショート(売り)を組み合わせて安定リターンを追求するのです。両建てにしてリスクを抑制しつつ、リターンを最大化するためにレバレッジを使うのも特徴の一つです。


このショート(空売り)ばっかり注目されがちなのが、最初に話した売り仕掛けとか、相場を崩している存在とか、そんなレッテルを貼られがちな原因の一つなのでしょう。

そこで忘れられがちなのが、それに対するロングポジションも常にあるということです。
ショートオンリーのファンドなんて欧米にはごく一部あるかもしれませんが、自分は日本では聞いたことはありません。ムチャクチャ怖い戦略だと思うし、相当その問題企業を深くリサーチしていないと取れないリスクでしょう。



実際には日本株ヘッジファンド(エクイティロングショート)の多くが「マーケットニュートラル」として、常に金額(もしくはβ調整後のリスク)をニュートラルにして運用しています。またはロングバイアス(買いの方が若干多い)のところもある程度あると思いますが、積極的にショートバイアスかけてるところの方が少ないでしょう。だから今年の下げ相場では、ヘッジファンド(特に欧米)のパフォーマンスも思わしくなかったりもします。


はっきり言いますが、そんな思惑でムチャクチャなリスクの取り方してたら、投資家には受け入れられないです…。


ヘッジファンドに投資している投資家層は、基本的にはプロの投資家ばかりです。デューデリジェンスもとても厳しいし、リスクの取り方や分散、パフォーマンスについても非常に厳しくチェックされます。オペレーションやコンプライアンス体制のチェックも相当厳しいです。

それらのチェックを経たうえで、ようやく投資してもらえる。
そしてパフォーマンスだけではなく、コンプライアンスも含めて何か問題が起きればあっという間に解約されます。それぐらい厳しい目線を持った投資家に対して「個人投資家のポジション見て需給を根拠に仕掛けています」なんて話して投資してもらえると思いますか?そんな銘柄がそうしょっちゅう、何十銘柄もは出てはこないですし、再現性も低いでしょう。


実際に投資家と対話し、マーケティングを行う立場の自分からしたら、そんな安直な話をして投資してもらえるならどんなに気楽なことか…。というか、投資家を馬鹿にしないで欲しいとも思います。そんな危なっかしいヘッジファンドに投資する投資家はそうそういないでしょう。




投資家からは常にその運用の「再現性」を求められます。
しかも日本のエクイティロングショートのヘッジファンドは欧米ほど規模の大きいところは少なく、大きいところでも兆円規模ってのは聞いたことがありません。1000億円台ですら数えるほどでしょう。
ほとんどが数人の規模で数億円~数百億円、とびぬけたところで1000億円超(そこも一人のPMではなく、複数名のPMによって運用している。つまり一人当たりの運用額はそこまで大きくはない場合が多い)。



しかも、日本のエクイティロングショートのPMは、多くがアナリスト出身であったりします。
「ボトムアップ・リサーチ」という企業リサーチをベースにしたミクロのファンダメンタルズ分析に基づいた銘柄選択を行っている運用者が圧倒的に多いのです。
また欧米の投資家にはよく「日本のエクイティロングショートのヘッジファンドはなんでこんなに銘柄数が多くて分散させているのか?」と聞かれます。
欧米のヘッジファンドは30~40銘柄程度、日本のヘッジファンドは数十~100銘柄以上のようです。ただでさえ欧米のヘッジファンドに比べて運用規模も小さいのに、これだけ分散効かせている。


そういった人たちがそんな仕掛け的な相場の張り方するでしょうか?
そんな相場を動かすような仕掛けできますか?
合理的に考えれば理解できると思います。


【追記】

そうそう。

小型株でそれなりに相場作っている銘柄を売り崩す。そのためにはどれぐらいの株数を空売りをすればできるのでしょうか?
「小型株なんだから売り崩すのは簡単」
と思うかもしれません。でも小型株だからこそ、株券を借りることが難しいのが現実なんです。

ヘッジファンドは基本的にはブローカーのレンディング(貸株)デスクを通じて借株を行います。レンディングデスクはレンダーと呼ばれる株を貸してくれるような主体から株券を探してくれるのですが、小型株は発行済株数がそもそも少なく、特に株価が急騰して沸いているような銘柄は「Hard to Borrow」といって調達困難で在庫がなかったり、借りれても株数が非常に限られ、レンディングフィー(貸株料)もムチャクチャ高かったりします。


「空売りを行う際には事前に株券の手当て(借りる手配)を済ませた状態で行わなければならない」


これは市場のルールですから、ヘッジファンドでも厳守しなければならないものです。
もし株券の手当てをせずに空売りを行った場合、それは「ネイキッド・ショートセル」となり、大きな問題になりますし、ブローカーにも大変な迷惑がかかります。運用会社としての管理体制を問われますし、信頼を失いかねないことになります。株券の手当ても行わずにその銘柄を売り崩すような売り仕掛けなんてやったら一発退場でしょう…。

そんな株数貸してくれるところ、しかも安いフィーで貸してくれるようなところがあるならぜひ教えて欲しいもんです…。
小型株で沸いているHard to Borrowの銘柄を売り崩せるほど大量の借株できるなんて…しかも発行済株式数の〇%とかいうレベルで株券を借りれる?

すごい想像力だなと。

「売り仕掛け」と簡単に言う人がいますけど、実務を知る人からしたら苦笑いするしかないですね。。。


それぞれのPMが、こういった制約やルールを守ったうえで、常にバリュエーション評価などを行いながら、割高と考えたりするものをフィーを払ってお借りしたうえでショートポジションに入れていく。必死に分析し、知恵を絞ってマーケットと向き合っているんです。
急落したところを新規で売り仕掛けにいくほど危なっかしい運用なんてまずする人はいないでしょう。そんな芸当どうすりゃ出来るのか教えて欲しいぐらいです。

よっぽど一部の個人投資家の方がリスクテイカーだと思いますよw
だって投資家に説明責任を負うこともないですし、自己責任の範囲で自由にリスク取れるのですから。


「ヘッジファンドは売り仕掛けで儲けてる」なんてショートポジションだけ取り上げて話題にする人も少なくないですが、基本的に反対にはそれ以上のロングポジションがあるということを覚えておいてください。ショートだけで儲けているなら、上げ相場では大ヤラレして消えているはずですからw


納得いかない動きを、よく理解できていない存在のせいにして片づけてしまうのはとてももったいないと思います。

マーケットは知恵比べでもあります。
上がる理由、下がる理由があります。
ある理由で上がると期待して買いが膨らんでいれば、その理由が損なわれたときにそれだけ急激な下落が発生するのは当然のことです。それは誰かの売り仕掛けではなく、そこまで期待から買いが膨らんでいたということなのではないでしょうか?

こっち側では「混みあっている」とかよく言いますが、人気化している銘柄はそういうリスクがあると考えて、内容がよくても慎重になったりもします。



株価が上がれば、潜在的な下落リスクは高まる。
株価が下がれば、潜在的な下落リスクは低下する。
雰囲気で相場を張らず、常に銘柄選択の際に根拠をしっかりと持ち
期待で相場を見ず、期待値への評価を客観的に行い続ける


リスクのあるマーケットという世界で長期的に生き残っていくためには、とても大事なことです。
思うようにいかなかったことを、よく理解できていない何かのせいにして終わってしまうことは長い目でみてためにはならないでしょう。



今日もブローカー主催の投資家とのネットワーキングにご招待いただき参加してきました(英語力もままならないのに厳しい時間でしたが…)。
実際に欧米の投資家と話す機会も増え、日本の資産運用はかなり偏りがあると感じています。
自分たちの常識と思っていることが、もっと広い視野・視点で見ると非常識だと痛感することもあります。
先日のHFC(ヘッジファンド・カンファレンス)では、250名ほどのヘッジファンドビジネス周りの方々が集まっていました。そこにいた日本人はわずか数名だったかと思います。
日本のポテンシャルはとても高いし、もっともっと世界で評価されていいと信じています。
色眼鏡、偏った情報や知識…そういった情報が日本には溢れています。
投資詐欺、悪質な煽り…沢山目につきます。
ご自身の資産を守るためにも、ぜひ目を開いて、広い世界を知ってほしいと思います。


新しい取り組みの中で、自分の知り合いなどにお願いして社内勉強会などを企画することを始めました。
様々な立場で資産運用業界をよく知る方々に講師になってもらい、後輩たちには少しでも広い世界を知り、その中で運用者として成長していって欲しい。
数年先、十年先、日本の運用者として大きく育ってほしい。
そう願っています。

プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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