【運用】リスク許容度(損失限度額)
リスク許容度(損失限度額)って運用を行うにあたっての土台になるもの。
いくら運用枠が大きくても、いくら環境がよくても、これが小さければ勝負できなくなる。
これまで出会ってきた優秀な運用者(後輩達を含む)は、みんなこのリスク許容度から逆算してどの程度のポジション、リスクを取っていいのかを考えていた。
それによってどの程度のリターンを目指せるのかが決まってくる。
個人の場合、この土台となるリスク許容度をあまりにも軽視し、エラい無茶なリターンばかりを目指した結果、ある時期たまたますごく儲かったけど、結局全部すっ飛ばしてしまう、なんてケースも多く見られる。
会社のお金を預かるディーラーであれば、そのリスク許容度(損失限度額)は会社が自分に与えてくれる信頼そのものだ。
確かに、中には人のお金だからと丁半博打のようなリスクを取り、無茶なリスクを取るような輩も見てきた。でも今の時代に生き残っているディーラーにはそんなやつはいない。
確かに、ブレーキをかけるのが苦手なやつもいる。完全なファイタータイプ。いくら殴られても、“まだまだ”と相手を殴り倒すまでブレーキをかけようとしない。でも自分を見失っているかどうかは、運用経験がある人間が見ていれば分かる。
運用者本人のリスク許容度(大)と会社のリスク許容度(小)が合わないとき、これは難しいことになる。より大きな信頼を与えてくれる環境に移るか、個人投資家として自身のリスクでやる他なくなる。
どこの証券会社も、多くが一線での運用経験がない方がマネジメントを担い、結果として不調なときに“損を出させない(損失限度額を減らす)”、“コストを抑える”、“人を減らす”というアプローチを取ってきた。その帰結が撤退縮小だ。
リスクを取ってリターンを目指す世界。
最前線に立って収益を上げ続けなければならない部門。
このやり方は収益力を押し下げ、チームのモチベーションを引き下げ、組織を弱体化させる。
基礎コストは簡単には下がらない。安易な人員削減でディーラー一人当たりの基礎コストはより高くなり、ちょっとした低迷で赤字に陥りやすい組織になる。一人のディーラーへの依存度が高過ぎれば、そいつが不調になったり、流出すれば組織は一気に弱体化する。
組織の目指すもの、特性を理解した上でコストコントロールは適切に行う。抑えるところは抑えてもかけるべきコストは積極的にかける。人材獲得や育成は手を抜いてはいけないし、実績を上げたディーラーにはより良い環境を与え、リスク許容度という“信頼”を付与していく。決してマネジメントはその手を止めてはいけない。
会社とディーラー達との間に必要不可欠な信頼関係。これが失われた時、組織は崩壊する。
昨晩、後輩と食事していたときに、日本に出張中のシンガポールでお世話になっている先輩から呼び出しがあり、食事後に合流させていただいた。
そこには以前、自分が現役時代に一番お世話になっていた証券会社の経営者の方がいらっしゃった。「どうしても工藤さんに紹介したかったんだよ。」と言ってくださるその先輩に感謝だったし、その経営者の方も自分のことをよく覚えてくださっていた。
当時、まだ30歳代で、上しか見ていなかった自分。もっと強く、もっと大きくなりたいという思いの塊だった。
その会社への移籍を決めたのは「現在の自分よりすごいと思えるやつがいるところにいきたい」からだった。
彼の存在、そしてその会社が多くの信頼を与えてくれたからこそ自分はディーラーとして成長できた。月間で数千万円すっ飛ばしたときも「これまで十分頑張ってきてくれているんだから気にするな」と上から声をかけていただいた。「経営や上司が自分を信頼してくれている」その気持ちがリングに向かう自分の背中を押してくれたし、もっと成長して、その期待と信頼に応えたいと思わせてくれた。
今、自分は自分達のファンドに投資してくださっている投資家にその気持ちを抱いている。
マイナスがある世界。
リスクと向き合い続ける世界。
そこには「信頼」が最も大切なものだ。
「管理」「ルール」も大切だけれど、目には見えない「信頼」という絆を失ってはいけない。