【回想録】混迷のとき…16
そういってくれたディーラー仲間3人と共にシンガポールに一度行ってみようということになった。
自分は『チーム』にこだわっていた。
短期運用を主としてやってきたディーラーにとって、運用規模の限界点は高くはない。
ロング・ショートなどであれば、まだ規模が大きい運用も対応できるが、短期運用の世界では流動性の問題も含めて、それほど一人のキャパシティは高くはない。
しかし、ファンドをやるのであれば、規模の拡大を目指さなければ意味はない。
成功報酬だけなら、地場証券ディーラーの方が圧倒的にいい。
自分が運用できる適正規模は30億円程度までだろう。
これまでのレコードで見ても、そのぐらいならある程度納得できる利回りを確保できるが、それ以上はストラテジー(運用手法)を変えていかないと難しい。
ファンドの世界では30億円というのは非常に小さい規模に過ぎない。
地場証券のそれとはあまりにも大きな隔たりがあった。
それを組織として行うことでカバー出来るのではないか、と考えていた。
資本効率の高い運用に関しては長けている運用者が多い。
それがディーラーでもあるのだから。
それを目指すことができるとするなら、自分一人ではなく、チームで…と考えていた。
4人でシンガポールに行くことにし、オファーをくれた投資家と会った。
そしてシンガポール在住のヘッジファンドをやっている友人たちとも会い、仕事について、そして生活についても色々と聞いた。
少しずつ踏み出す決意が固まりつつあった。
問題は今の仕事。
いくらその可能性があると伝えてあったとしても、ある程度のケジメはつけなければならない。
副社長に相談し、後任を見つけてもらえるまでの間は頑張ることにした。
いずれそういう時が来ると思うからと伝えておいたこともあって、引き留めはそれほど強くはなかった。
『送り出そう』
そう言ってくれた社長、副社長には心から感謝している。
色んな壁に苦しみもした会社ではあったけれど…
仕事に懸命であり、誠実であることの大切さを教えてくれた会社でもあった。
そしてしばらくして…
その時は来た。
シンガポールに移り、そこでファンドを目指す。
新しい挑戦の始まりだった。