【マーケット】退場させられないために…
2020年のコロナショック以降の日米の主要指数推移。
※手が空いたところでざっと計算したので違っていたらごめんなさい。
コロナショック時の安値からの上昇率は2年にも満たない期間で非常に大きなものとなった。
ここに取り上げた指数の中で最も大きな上昇率を示したのはSOX指数(フィラデルフィア半導体株指数)。229.68%もの上昇率となり、実に3倍超の上昇となった。
最も小さかったのはTOPIXの76.79%。米国の主要指数が軒並み100%を上回る上昇率となっているにも関わらず、日本の主要指数はマザーズ指数を除いて伸び悩んだ印象が強い(マザーズ指数は上げも大きかった半面、下げも大きなものになってしまっているけれど…)。
よく言われることだが、グロース株主導の上昇局面において、本当の意味でのグロース株は日本にはあまりなく、米国に集約されているという面もあるかもしれない。アップルやテスラ、アルファベットなどが大きくこの上昇をけん引してきた米国株との違いが顕著に表れている。
コロナ後の安値からだけで考えると、評価の仕方としてあまり適切ではないのかもしれない。
パンデミックという100年振りに訪れた世界的な危機に対して市場がパニックを起こした時の異常値を起点として適切に評価できるか…という考えもありえるだろう。念のため、コロナショック前の高値からの上昇率も計算してみた(テクニカルや波動分析などにおいては実際についた価格である以上、それを尊重すべきと思うが)。それでもやはり米国株の強さは際立っている。
米国株はナスダック指数を除いて、2022年の年初来高値がコロナショック後の上昇局面における最高値となっている。そしてそこから調整してきたわけだが、そこまでの上昇率がより高い指数の下落率が大きくなっている(当然といえば当然だが…)。
ここで気になるのは、上昇局面で米国株についていききれなかった日本株が、下落局面だけはしっかりとお付き合いしてしまっていることだ。指数によっては米国株以上の下落になってしまっているものもある。この日本株の脆弱さはやはり気になるところ。今回の下落が全て岸田首相のせいかのような意見には反対だけれど、政策や税制改革などについて十分な議論や調整がなされていないまま、株価に対してネガティブな発言を安易にし過ぎているようには感じる。根本的な日本の国力や経済力、企業の差、(海外投資家に依存しがちな)投資家層のバランスなど様々な要因があるとは思うが、その影響も少なからずあるかもしれない。市場をあえて下落させたいならともかく、確かにもう少しその発言には配慮があって然るべきだとは思う。
(参考グラフ)

リーマンショック以降、世界各国の中央銀行がバランスシートを拡大させ、積極的な流動性供給を行ってきた。日銀にいたっては株(ETF)を買うというところまで踏み込んでいる。2019年~2020年初にかけてFRBはその出口を模索しかけたが、コロナによるパンデミックで流れは一変した。
パンデミックに対応した非常に積極的な流動性供給を中央銀行が実施し、マイナス金利なども恒常化する中で、パンデミック後の上昇はグロース株主導で実現してきた。ワクチン開発によるパンデミックのゲームチェンジへの期待などから、2021年前半にバリュー株の反転攻勢などの局面もあったが、変異を続けるコロナとの戦いは一気には収束せず、金融政策などの変更がない中でベースとしてはグロース株優位の状況は継続してきた。これまでの相場に中央銀行の政策がかなりの影響を与えてきたことは意識しておかなければならないだろう。
しかし、足元のインフレ懸念の高まりから、昨年末にかけて急速にFRBの姿勢がタカ派寄りになり、金融緩和政策の変化が懸念されるようになっていた。昨年末のいくつかの記事では、2022年の米国株式市場はあまり期待できない、調整の懸念があるという記事やコメントが増えていたように思う。そして年初からの調整は起こるべくして起きた。ある程度備えが出来ている人もいたということだろう。
もちろん、その局面で資産を減らしたり、ダメージを負った投資家やヘッジファンドも多いかもしれないが、そういった人たちはそれまでの上昇局面で十分にリターンを上げてきた人が多いだろう。
ここで考えて欲しいのは、コロナショック後の安値からの上昇率からみれば、今回の高値からの下落率は限定的なものだし、「調整」の範囲内に過ぎないと思われることだ。リバウンドはしているものの、まだその調整が終わったはいえないし、これから最終的にどこまで調整が必要になるのかは分からないけれど、コロナショック時のような異常かつパニック的な下落ではないことは確かだ。
今回の下落は、それまでの強力な上昇トレンドがいったんは終了し、調整局面入りした…という表現で済む範囲の下落だろう。最近「岸り人」なんていう言葉が増えているらしいけど、もしこれまでの上昇局面での利益を全部吹き飛ばしてしまうような負け方をしているのであれば、リスクの取り方、ロスカットが根本的におかしい気がする。
確かにこの下落で資産を減らした人は少なくないだろう。ある意味それはしょうがないし、全ての相場の波をとらえることはそもそも出来ない相談だ。グロース主導の上昇に賭けてきてリターンを伸ばしてきた人が、今回の調整局面で、ある程度利益を減らしてしまうことは決しておかしなことではない。ただこの程度の「調整」で全てを飛ばしてしまうってのは正直どういうリスクの取り方をしていたのだろう?と不思議に感じてしまう。安値からの上昇率、高値からの下落率、どう考えても計算が合わない。
「株は危険」、「相場はギャンブル」…そうさせているのはその人自身のリスクの取り方にある。
長く相場を続けている人、成功し続けている人はリスクとの向き合い方がしっかりと出来ている人。
株に限らず資産運用は長く続けて欲しいもの。短期的に損が出ることがあっても、そこがしっかりとコントロールされてさえいれば、長期的にはカバーしていける。
「老後2000万円問題」あたりから、自分の将来に不安を感じ、投資や資産運用と向き合ってきた人は多いと思う。もしそこにフォーカスするならば、重要なのは短期的な損益ではなく、長期的な資産形成という課題だ。投資や資産運用にはリスクがつきものだし、増えることもあれば減ることもある。だからこそ長期的に見て資産形成上プラスにしていくためには、リスクとしっかりと向き合うことが大切だ。
個人ならば自らのリスク許容度、会社のお金や投資家のお金で運用している人ならば預けてくれている人のリスク許容度をしっかりと理解し、適切な範囲でリスクを取っていく。
リスクを取りにいかなければリターンは得られないし、特に積極的なリスクを取るべきときもある。一方で常にフルスイングである必要もない。
想定外のこと(もしくは対応しきれないこと)が起きているからこそ損が出る。そういったときこそ冷静に慎重に。何を見落としていたのか、何が間違っていたのかを客観的に分析し直し、立て直すことが必要なときなのだから。絶対に感情的になったり、取り返したいという焦りや怒りでリスクを振り回す愚だけはおかしてはいけない。もしそれで取り返せたとしても、それは何度も続きはしない。そういった運用者が退場させられてきたのを何人も目の当たりにしてきた。
せっかくこの世界に興味を持ってくれた人が、人生に悔いを残すような去り方をせず、長く相場と向き合い、楽しみ続けてくれることを願う。