FC2ブログ

【マーケット】”岸田ショック”という表現に思うこと

“東証大暴落”100兆円吹っ飛ぶ 新興市場はリーマン・ショック超える惨状 冷淡「岸田ショック」に怨嗟の声、悲鳴に耳は傾けないのか

https://news.yahoo.co.jp/articles/b5a69bc201f6d726335aa3ffed5a1ce83812d284

このヘッドラインだと、まるで岸田首相のせいで株価が下落して、100兆円の時価総額が失われたように書かれているけど、正直かなりの違和感。株式市場に関わる人たちの中での岸田首相への評価と、一般的な支持率との乖離も相当ありそうだ。

岸田内閣支持66% コロナ対策でリーダーシップ「発揮していない」47% FNN世論調査

https://news.yahoo.co.jp/articles/b5957f1d6936d140fa2fd8094136cb37f0e4fb2f

確かに岸田首相になってから「新しい資本主義」「成長と分配」を標榜し、必ずしも株式市場に優しい政策は示されなくなった。それに対する怨嗟の声なのだろうけど…。
岸田首相の考え方は、社会一般的な立ち位置で見ればそれほど間違ってはいないのだろう。だからこその支持率なんだと思う。この温度差には色々と考えさせられることが多い。

アベノミクス以降、黒田日銀の金融政策をはじめ、ある意味資産インフレを積極的に誘引し、経済の活性化を図ろうという施策が恒常化してきた。欧米においてもリーマンショック以降、金融緩和政策が恒常化され、日欧ではマイナス金利というあまり聞いたこと経験したことがないような事態まで恒常化してきた。

米国などはコロナ前に一時その出口を模索する動きを見せかけていたが、コロナ禍によってそれは一変し、強力な流動性供給によって経済のダメージを抑制していく形になっていった。それによって確かに資産価格は大きく上昇し、株、不動産、暗号資産など様々な資産が上昇していった。中央銀行の強力なサポートなしに、それらは実現はしなかったのではないだろうか。

ただその副作用はそれなりに出ている。

世界の貧富格差、その現状・特徴と経済成長との関係

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69943?site=nli

長期化するインフレ懸念

https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69368?site=nli

持つ者と持たざる者の貧富の格差が拡大し、コロナ禍によって生活苦に陥る人が多数出る中で、確かに資産インフレによって生み出された富が十分に再配分されることなく、潤ってきた人たちを除けば全体として不満や不安が増大していたことも確かだろう。

足元のインフレは、どちらかといえば供給サイドに起因していると考えている。コロナ禍が継続してはいるものの、(中国を除く)世界各国がゼロコロナからwithコロナへと動き始め、経済活動を再開し、需要が回復しはじめる中で、輸送や生産が恒常化した人手不足もあって追いつかない状況が続いている。本来であれば、供給サイドの課題がクリアされていくに従い、このインフレは沈静化していくとは思うが、毎日のように生活物資の値上げが報道されるような状態は国民生活の負担や不安を増大させる。そしてこれまでの緩和政策をインフレターゲットなどで正当化してきた以上、実際に急激なインフレが生じれば(それが長期化するかしないかは別にして)、ある程度の政策スタンス変更を余儀なくされる。

株式市場においては、リーマンショック以降、低金利の恒常化が続く中でグロース優位の展開が続き、コロナ禍以降はさらにファクターによる歪みもかつてないほど極大化され、ロングショートやっていてもPLが相当ブレやすい場面が増えた。その歪みはITバブルなどを含めても、個人的には見たことも経験したこともないようなレベルでの歪みだった。

もちろん資産価格が急激に下がれば、政治も中央銀行も配慮を示すだろうし、彼らも資産価格の下落を望んでこういった発言や姿勢変化をしているわけではないだろう。それはあくまでもこれまで資産インフレに対して積極的な政治や金融政策によって支えられてきた面が剥げることによって生じた副作用でしかない。
ある程度の調整が一巡すれば、また市場は冷静さを取り戻してはいくだろう。

株式市場に優しい政治や金融政策が永遠と続くわけではないし、社会や経済全体を見渡したときに、それが許容限界点に近い状況に達しつつあるということなのだろう。それは貧富の格差是正をうたう米バイデン政権の姿勢にも見てとれる。

マイナス金利や中央銀行が株(ETF)を買うなんていう特異な政策が永遠と続くと思っていたのだろうか?
ちょっと疑問を感じてしまう。
確かにアベノミクスや黒田日銀の政策は、株式市場関係者にとってはポジティブなものではあったけれど、”株価は政治や中央銀行が支えてくれるのが当たり前”という姿勢でいたり、それをしてくれないからと不満や怨嗟の声をあげてみてもしょうがない。

昨年末にかけて強まった米FRBの姿勢変化、ドイツ金利が一時プラスに浮上するなど、金利の動きを見ていればこういった調整が生じるリスクを感じ取るチャンスはあったように思う。

リスクとどう向き合うのか。
”下げたところは買っておけば大丈夫”という根拠のない安易な姿勢で臨んでいればいつかはやられる。
リスクを取らなければリターンは得られない。でもポジションを保有するということはリスクを保有するということでもある。
どんな優秀な運用者でも全てを完ぺきに捉えることはできないし、失敗することもある。
それでも損失が出た場合のリスクコントロールさえ、しっかり出来ていれば退場するようなことにはならないで済むはずだ。

2020年3月のコロナショック時の安値からの上昇率を考えれば、コロナ禍で生じた上昇トレンドの転換と調整局面に入った程度の下落に過ぎない。”暴落”というようなものではないだろう。
長く相場と付き合っていくためにも、リターンばかりを追わず、リスクと向き合うこと。都合のいいことを期待するばかりではなく、不都合な現実とも向き合うことが大切だろう。

うまくいっていないときほど視野が狭くなりがち。
いったん相場と距離を取って、相場を俯瞰して見直すべきときもある。

儲けやすい相場もあれば、難易度の高い相場もある。
相場は上がれば下がるし、下がれば上がる。
こういう時こそ一歩引いて、より広い視点で相場と向き合う必要がある。

この世界に30年近くいて、ずいぶん沢山の若い運用者を見てきた。
バブル的な相場や儲けやすい相場で大きく数字を伸ばした運用者は、その後の難易度が高い相場で多くが姿を消していった。
逆に難易度が高い相場で生き残ってきた運用者は、今でも残っている人が相対的には多い気がする。

この下落は、レバレッジの使い方、ロスカットの大切さ、リスクとの向き合い方を見直すいい機会かもしれない。そこがしっかり出来ている人は、政治や中央銀行に依存した相場ではなくなっても、ちゃんと生き残り、リターンを上げていけるだろう。

こんなことでまた「株は危険」「投資はギャンブル」などというレッテルを貼ることはやめて欲しい。
株を危険なものにしているのも、投資をギャンブルにしているのも、リスクの取り方を誤っている本人の問題なのだから。

相場が下げたのを誰かのせいにしたり、それで損をしたことを誰かのせいにしても、それは自分のためにはまるでならない。不満や怨嗟をぶつけてみても、自分の成長にはつながらない。
岸田首相を擁護する気もないし、その政策が正しいか間違っているかを評価するようなつもりもない。ただなんでもかんでも岸田首相のせいにしてしまうような安易な結論で終わってしまわないでほしい。

何を見ていればこの動きを取れたのか、どうすればよかったのか。
一つ一つを振り返りながら、自らが見落としていたもの、間違った行動がどこにあったのか、その辛い現実と向き合っていくことでしか、自分を高めることは出来ない。

あなたがもし運用者を志しているのなら、その失敗を糧にして成長して欲しいと思う。

プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR