【回想録】混迷のとき…15
混迷のときが長い気がしますが…実際長いのでもう少しお付き合いください(^_^;)
シンガポール在住の投資家からのメールには、運用資金を預けるのでヘッジファンド立ち上げに挑戦してみないかとのことだった。最初はその投資家の運営する組織の中で運用しながら、ステップを踏んでファンドとして独立を目指すという内容。
『何で自分?』
とも思ったが、シンガポールにいる友人やインキュベータ(ヘッジファンドのサポートビジネス)と言われる仕事をしている知り合いから自分の名前が挙がったとのことだった。
最初はあまり真剣には受け止めていなかった。
今の会社でディーリング部立ち上げという仕事を始めてまだ半年。いくら困難が多くても諦めたり、投げ出したりするのはまだ早い…そう思っていたから。
しかし、前回の一件以来、ここで目的を実現することは無理なのではないか…そう思い始めていた。
運用に回せる資金は最初に聞いていた金額の3分の1しかなく、東証会員権も取ると言っていたのに取れないまま。そして極端な企業文化。人材育成についても前回のような有様だったから、とても期待はできない。
自分は苦慮の末、退職を考えたいと上司に伝えた。
数日後、社長、副社長と三人で飲みにいこうと言われた。
そこで社長は熱く語ってくれ、自分を引き留めてくれた。
『お前がやってくれるなら10億やられたっていい。』
そこまで言ってくれた。
社長は強いリーダーシップを持ち、ビジネスに対してもアグレッシブで尊敬できる人だった。
そんな人にそこまで言われて…自分の心は揺らいだ。
でも…200万の損失で『空気読め』と言われて、その数か月後に『10億やられてもいい』なんて言われても、『はい、分かりました』と切り替えられるもんじゃない(^_^;)
どうしても『迷い』は断ち切れなかったが、尊敬する経営者にそこまで言われては…。
今の自分は
ファンドに関するオファーが来ており迷っていること。
そしていずれそういったチャレンジをしたいと思っていること。
いくつもの現実的な問題があり、正直実現は難しいと思っていること。
最後までやり遂げる約束は現時点ではできないこと。
そして時が来れば、ファンドへの道を模索する可能性が高いこと。
それらを全て社長・副社長に伝えた。
それでも頑張ってみろ、と言うのであれば、今出来る限りの全力は尽くす
と約束して再スタートを切ることになった。
ディーリング部はトレーディング本部から離れ、副社長直下の組織として再編成され、自分の直属は例の本部長ではなく、副社長になった。
そこからいくつかの案件がようやく動き始めた。
バックオフィスの人たちや人事、システム部のみんなが本当によくサポートしてくれた。
以前よりは前向きに動けるようになっていた。
しかし、道程はあまりにも遠かった。
会社としては好きな会社だった。
何といっても『熱い』人が多かった。
真面目だし、自分には合っていた面もあると思う。
ただ組織としては『軍隊』。
証券業界においては対極ともいえるディーラー達。
社内育成、未経験者育成で組織化していくには、あまりにも道が遠かった。
あるとき、ディーラー仲間の後輩たちと4人で飲んでいたとき、自分はふと『ファンド立ち上げ』に関するオファーが来ていることを話した。
彼らは口々に
『そんな話来てるなら、もったいないっすよ。』
『考えてみた方がいいっすよ。』
『俺らで良ければ一緒にやりたい。』
とまで言ってくれた。
自分の心が動いた瞬間だった。
そしてその投資家に一通のメールを送る。
それが次のチャレンジへのスタートとなった。