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【回想録】混迷のとき…13

当時、ディーリング部はトレーディング本部に属していた。

本部にはFX(オンライン・トレード)の部署もあった。




自己運用は自分のところだけだったが、FXの部署でもOTCで多少ポジションを取ることもあった。


基本的には仕事上で密な連携はなかったのだが、どちらも小さな所帯なんで飲み会やら何やら、大体いつも本部単位で行動することが多かった。




FXの方は事業として低迷しており、部店長会議ではいつもつるし上げの対象になっていた。本部長が立たされ、いつも怒鳴られている横で同じ本部内の自分はディーリング部の収益など関係なしに一緒に立ちんぼするハメになっていた。




あるとき現場を任せられていた課長が会社に来ないという事態が生じた。少し前までは次長がそこを仕切っていたのだが、収益低迷と方針が合わないということで降格処分されて、若い課長がその後任になっていた。




すさまじいプレッシャーだったと思う。

自分もそうだったから…。


その会社には『追及』という言葉があり、それはとても厳しい責めを意味していた。

その一部門を任せられるということは、そのプレッシャーを背負うことになる。




毎月月末に開かれる部店長会議では、部店長が泣かされたり、追い出されたり…激しい会議が多かった。


彼も若いなりにやってみせるという思いと、プレッシャーの中で苦しんだと思う。




部店長会議目前のある日のこと。

ある日、彼は会社に来なくなった。


理由は、FX部門で抱えた損失が原因だった。


慢性的な人員不足にあったその部署。

FXは夜間まで売買を行うお客さんが多い。

結果、その課長と若手の子が交代しながら夜中までマーケットをみながら、売買を行っていた。




最初は小さな額。

それを何とか取り返そうと若い子が無理をした。

そして傷口が広がり…数十万になったところで課長に報告した。

その課長も部下の出した損を何とか取り返そうと自分で抱え込んでしまった。

その損は▲200万程度まで膨らんでいた。




日に日に近づく部店長会議。

精神的に追い込まれていった課長。

ほとんど眠れなかっただろう。


そして部店長会議の前日に本部長に報告した。

そこでようやく損失が明るみに出て、社長まで報告が上がることになる。




損失たってたかが▲200万だ。

しかし、その会社での▲200万の損失がどれだけ重いかは自分も痛感している。

自分はようやく数百万のブレを許容できるようになっていたが、彼らにとっては未体験の金額でもあり、凄まじい重さに感じたことだろう。




そしてその課長は翌日の部店長会議から会社に来れなくなった。

処分されたわけではない。

様々なプレッシャーの中で精神的に追い込まれ、そして社長に報告にいったとき誰もかばおうともしなかった。

そして彼の思いを聞いてやる人もいなかった。


彼は精神的に追い込まれて来れなくなってしまったのだ。




彼の弱さを指摘する人もいるだろう。


確かに逃げ出したのだから、それも仕方ない。


自分もそう思うし、彼自身がそれを分かってもいた。




ただそう簡単に言えるほど、その会社のプレッシャーは軽いものではなかった。


独りで抱え込み、苦しみ続け、相場の好転を祈るような思いで願いながら裏切られ続け、日に日に近づく部店長会議のプレッシャー。


本当に眠れない毎日だったと思う。


苦しかったと思う。




自分がそれを知ったのは彼が会社に来なくなったときなのだが、ラインが違うとはいえ同じ本部内になりながら、相談できる存在でいれなかった自分が悔しかったし、情けなかった。




携帯にメールを送っても、電話をしても出ない。

家に電話してもダメ。

20回ぐらいかけてあきらめかけていたとき、夜遅くに彼から電話がかかってきた。


自分は彼に謝った。もっと密にコミュニケーションを取っていれば話してもらえたかもしれない。

何か出来たはずなのに何もしなかった。先輩として、本部内の上司として、一部門を預かる仲間として『すまなかった』と。




電話の先で泣きながら、彼は自分の責任を詫び、社長の前で何一つかばってくれなった上司に対する悔しさを自分に伝えた。




彼はしばらく後に会社を辞めることになる。

いい転職先が見つかったので、自分は『良かったな』と彼に言って送り出した。





そのときの問題が、本部長に対する不信感(例の件『空気読んでくれ』の一件以来くすぶっていたけど…)を強めることになる。




この事件での最大の問題は管理体制の不備。

売買にかかわる報告体制、外部部門からの監視体制が何もできていなかった。

損失が出ても報告しなければ誰も気づかない…1995年のベアリングズ・ショックの時のニック・リーソンじゃあるまいし。




FXのチームがどういう管理体制でやっていたのか、自分は詳細は知らない。

ただ運用に準ずることをしている部門において、現場からの損益報告と管理部門からの監視及び報告体制を構築することは常識とすらいえる。




そんな体制の不備を棚にあげて、部下だけのせいとする上司。

当の本人はほとんどデスクに座って、居眠りすることもしょっちゅう。

テレビに出たり、相場のコメント書いたり…現場を率いる責任者としてもっとしなければいけないことはあるはずなのに。




人としては『いい人』。

下の者にも敬語を使ったり、腰も低い…。

でも実務には恐ろしく向かない人だな…と自分は思った。


おそらくこの人はアテに出来ない。

困難を乗り越えていくには自分一人でやりきるしかない。




ちょうどその頃…。




自分に一通のメールが来ていた。


シンガポールにいる資産家の方からだった。


先物の運用でいい人材を探していたところ、数名から自分の名前が挙がり、ぜひ一度会いたいと。

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プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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