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【回想録】混迷のとき…5

米国不動産市場における不安定な状況。

『CDS』という言葉がしきりに取り沙汰されるようになる。




デリバティブという魔法を使って、かぼちゃを馬車に見せかけた取引。

しかし、それは魔法ではなくまやかしに過ぎなかった。




米国不動産バブルが崩壊していく。

そしてベアスターンズ証券の破たん。




日経平均株価も2007年半ばまでは18000円前後を保っていたが、そこから下落サイクルへと突入していく。


市場は不安定な動きを続けていた。


しかも下げ相場というだけではなく、市場の値動きも徐々に乏しくなっていく。

活力を失っていく株式市場。




そんな中で、何とかしようと懸命に人材育成とリストラ案の取りまとめをやっていた。

様々なストレスを抱えながら…。




ある日、バックオフィスの人から声をかけられた。




『これは○○さんの耳に入れておいた方がいいと思うんで…』




と多少迷いながらもある資料を自分に見せてくれた。

それはディーリング部の売買日報。




自分はマネジメント補佐でありながら、そういった資料を見せてもらう立場にはなかった。

今思えばおかしいかもしれないが、契約ディーラーという立場でもあったため、その辺りの位置づけが中途半端だったのは確かだ。


自分自身もトレードし、ポジションを取る立場でもあったため、同僚の数字をいちいち見るのも気が乗らなかった…。




しかし、見せてもらったディーリング部の日報。

そこには意味不明なポジションと数千万に上る損失が示されていた。




『え!?何ですかコレ?』




その人も経緯や詳細はよく分からないけど、部長がとったポジションとのこと。


すぐに部長に問いただした。




『元々は投資有価証券(会社の経営戦略などから保有する株式。いわゆる持ち合い株など)という形で会社が保有していた株がかなりあった。それをまだ株価が高い時期に売却しており、かなり現金の余裕が出ている。その資金を寝かしている状態はもったいないから運用に回すことになった。』




とのこと。

なら同じように投資有価でやればいいと思うのだが…。




『機動的に運用が出来るように自己勘定を使ってポジションをとった。』




という理由。

ただロスカット・ルールは短期運用のディーラーと一緒。

そして現在出ている評価損については長期運用だから一喜一憂しないという。




ロスカット・ルールを短期運用と同じ尺度で設定しておいて、長期運用だから評価損は気にしない…という矛盾。

しかもこの経済環境下でノーヘッジでの現物株ロング。


明らかに運用素人がやっているようにしか見えない。


しかもディーリング部長だけではなく、経理部長、リスク管理部長の合議制で銘柄選定・タイミングを決めるという。

特に頭に来たのは、そこで多額の損失が出ても合議制だから誰が責任を負うということはない、という発言だった。




みんな苦しんでる。

うまくいっていないヤツはリストラ対象にもなる。


そんな状況下で部の責任者自らが判断にかかわり、多額の損失を抱えていながら責任は取らないという。


しかもそのポジションは6億強だったと記憶しているが、20億程度までナンピンしていくという。




ディーリング部が思うように儲からずにリストラ話を進めさせられていた側からすればたまらない…。


こちらから改革案を提出し、何とかよくしようとしているのに、それに対しては非協力的。そして半年経っても、一年経っても足止めを食らっていた。にも関わらず、そんなことを裏で進めていた。




部長個人はいい人だと思う。

熱意もあるし、世話にもなった。




経営判断で行ったというなら仕方ないかもしれないが、戦場で傷つき、苦しんでいる仲間がいて、その目の前でそんなことをされるのは許せなかった。


そして仲間に対して、リストラの相談をしていた自分。裏切りとまでは言わないが、そんな大事なことを相談もせずにすすめ、唐突にディーリング部の日報に現れた数千万の評価損。




こんなことを放置していたら、とんでもないことになる。6億ちょっとでわずか1~2週間で▲10%近くの損失。さらに20億まで増やすという。


しかし、いくら強く話しても会社が決めたことの一点張り。




誰かが止めなければ…。

自分は退職を決意した。

少なくともその覚悟を持って上にぶつからなければ、この事案がどれだけ危険なものなのか分かってもらうことはできない。




楽しい職場だった。

いい仲間、そして慕ってくれる後輩たち。

指導半ばの部下たちもいた。




迷いがなかったわけではない。

居心地もよかったし。




ただディーリング部改革案を提出して一年近くが経過しても何も変わらない。

契約ディーラーでありながら、マネジメント補佐という中途半端な立場。

非協力的な会社の姿勢。




そして今回の件。


半月後、自分はその会社を退職した。




その数週間後にリーマン・ショックが起きる。

そのポジションは1億円を軽く上回る損失を出して閉じる結果になったそうだ。

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なんとも

コメントしずらい内容ですが、そんなこともあったんですね、、(といっても、今の時代、自分の会社でもありそうな気はします、、)
プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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