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【市場雑感】アルケゴスの報道をみて

「レバレッジ」

使い方によってはメリットもあるし、デメリットもある。
一歩間違えれば致命的な状況を招く危険すらある。

今回のアルケゴスの問題。
色々と考えさせられる。
外資系証券や日系のグローバルプレーヤーも巻き込まれ、大きな損失を出している。

ファミリーオフィスとヘッジファンド。
似て非なる存在。

ヘッジファンドは基本的に投資家の資金を受託し、運用している。
ファンドの籍はケイマン諸島だったり、ダブリン、バミューダ島、ルクセンブルグなど、各地域によって様々。アジア系はケイマン諸島籍が多い印象だ。
会社型だったり、契約型だったり、そのストラクチャーも様々だが、基本的には投資家の資金を受託しているファンドにあまり多くの税金を課されると、投資家のリターンが減ってしまうから、そういったタックスヘイブンに設置される場合が多い。

ただヘッジファンドの運用を担うファンドマネージャーは必ずしもそこにいるわけではない。
ファンドマネージャーが属する運用会社(Investment Manager)は香港、シンガポール、東京、様々な国や地域に存在し、ファンドとのInvestment Agreementを元に運用を行っている。
つまりそれぞれの国や地域の規制や税制の下で認可や承認・登録を受けて業務を行っている。第三者のお金を受託することもあり、かなり厳しい規制や監督の下で業務している場合が多い。
特に個人向けとかで募集(公募)になると規制のハードルが一気に上がり、運営コストも跳ね上がる。オペレーションやコンプライアンスにリソースを割かれることも多くなり、ただでさえフィーの低下によってビジネスを安定的に行うことが困難になってきているこのご時世では「コスト」は厄介な問題でもある。結果、ヘッジファンドはあまり小口の投資を受け付けることをせず、機関投資家や富裕層向けに業務を行っているといったイメージがある。
それでも第三者の資金を受託する以上は、かなりの規制や監督の下で業務を行っている。当然、投資家にはPPM(目論見書)を交付し、そこにはどういった運用を行うのか、レバレッジなどについても記載してあったりする。

今回、問題を起こしたアルケゴスはファミリーオフィスだ。
かなりの富裕層がその巨額な資金管理を目的に作る場合が多く、その資産管理と運用を行う。
広く投資家から資金を募るものではないため、規制対象から外れている場合が多い。

今回、報道から見えてくるアルケゴスがかけていたレバレッジは5倍~8倍(500%~800%)。
かなり高い水準だ。特に運用対象がエクイティ(ロングショートやマーケットニュートラル戦略などであったとしても)だとしたら「なかなかパンチの効いたレバかけてんな…」というのが実感。

1998年に破綻したLTCMがかけていたレバレッジは数十倍ともいわれる(98年初で26倍、破綻時で57倍)。ただ彼らの運用対象は債券であり、レラティブ・バリューと言われるアービトラージ(もちろんそれでも異常だが)。

償還などがある債券と違い、株は基準となるものがない。
理論価格がある先物と現物のアービトラージとかならいざ知らず、純然たる株の運用となれば、運用資産自体が持つボラティリティやリスクは比較にならない。
特にこのコロナ禍の一年、(売り買いを組み合わせる)ロングショートなどでリスクを抑制していても、ファクターリスクが極端に効いていたために、各ファンドのパフォーマンスは結構ブレたと思う。株価の上げ下げだけではなく、様々な面でボラティリティの高い一年だった。
レバレッジはあくまでも運用対象商品や戦略に適した水準でコントロールされる必要がある。

また様々な企業や銘柄で大株主になるまでのシェアを持つということは、流動性リスクも相当に高いものになる。自分の買いで株価は上がってしまい、自分の売りで株価は下がってしまう。ポジションを外したいときに簡単には外せなくなる。この巨額な資金でこのレバレッジ…「やっぱすげーな…」という印象。

1億円の資金があったとして、500%のレバレッジを使って5億円のエクスポージャーを持っていれば、20%の評価損で当初資金が吹っ飛ぶ計算になる。800%なら12.5%の評価損でそうなっていまう。株ならある程度動けば10%程度は簡単にブレる。
そのレバレッジの部分の原資は、今回多くの損失を被ったブローカーが提供している。個人投資家の信用取引と同じことだ。当然、担保・証拠金の維持率があり、もちろんそこまでは待ってくれない。

結果として、追加証拠金を迫られ、それが支払えない状況に陥ったからこうなった。

バランスシートを提供して、レバレッジを許容していたブローカー側のリスク管理については、今後様々な意見が出るだろう。
一方で、あれだけの規模で複数のブローカーを使っている状況だ。自社で取っているエクスポージャーは見れても、他社で取っているエクスポージャーまで全て把握し、管理できるわけではない。デカイ客だから、手数料も半端ない。結局、ブローカーにとっても是が非でも使って欲しい上客でもある。同業他社がその顧客から多額の収益を上げているのを見て、ウチも取りにいかなければとなるのは当然といえば当然。大きな収益源にもなっているから、アルケゴス側にも強い交渉力があり、結果として高いレバレッジとか、諸々の条件を受け入れてきてしまったのかもしれない。今後、規制当局や業界として、様々な議論に繋がっていくのだろうなと思う。


なんにせよ儲けてきた裏付けからくる自信なのかもしれないが、このレバレッジはすごいことだなと思う。
ヘッジファンドはレバレッジを使うことが多い。
主流のロングショートなどは、売りと買いを組み合わせて方向性のリスクを抑制するが、リターンをより効果的に引き上げる目的でレバレッジを使う。

人は儲かるともっと欲しくなるし、うまくいっているときはもっとレバレッジかけておけばよかったと思うのかもしれない。逆に苦しい状況になっても、レバレッジを引き上げることで早く損失を取り戻したいと思うかもしれない。

でもそれは「儲かるだろう」という前提での発想。
「損をするかもしれない」という発想が欠けている人がこういう行動を取りがちで、レバレッジを凶器に変えてしまう。
株を投資や運用ではなく、投機に変えてしまう人たちにはこういう傾向が多く見られる。

オプションなどで個人が大きな損失出してしまったりするのも「レバレッジ」が根底にある。
うまく使えば素晴らしいものだが、凶器にもなることを忘れてはいけない。

正直、ここまでプロフェッショナルで経験があった人でもこうなってしまうということにはビックリだが、儲けてきた自信や実績があったからこそ陥ったのかもしれない。

儲け続けていたとしても、どんなに力があり、自信があったとしても、人は絶対に失敗しないなんてことはない。
自信満々のときこそ、そういったリスクを見失いがちになる。
「損をするかもしれない」というリスクへの警戒を忘れることなく、「損をした場合の対処」も想定しながらリスクを取っていく。
「自信がなければリスクなんて取れないし、勝負できない」
という人も多い。
もちろんそうだと思う。
でもそういった慎重さや臆病さを忘れたとき、1兆円の資産ですらわずか数日で消失してしまうということ。我々は教訓として学ぶ必要があるのだと思う。

プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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