【トレード】SORの問題について
今日はこの記事をきっかけに、「HFTによる先回り」が、すっかり話題になってしまっているようですね。
覗かれる株注文データ 高速取引、個人に先回り
この報道に対して、SBI証券もコメントを出しています。
本日の一部報道について(SBI証券)
SOR(Smart Order Routing)。
複数の市場(取引所、PTS、ダークプールなど)を比較し、その最良気配を取りにいって、執行コストの改善(約定価格の改善)を図る(目的の)機能。
単純な例としては、10000株を買いにいくとき、ダークプールやPTSに、より安い価格に売り注文があればそれを取りにいき、その後残った株数を主市場である東証に取りにいったりする。
でも概ねよりいい価格で執行できたのは100株のみで、残りの9900株は主市場で約定とかだったり…。その100株の約定が原因で、東証で取れていたはずの9900株の注文が(HFTに先回りされて)空振りになり、約定機会を失う方がよっぽど問題だったりする。
今、問題とされているのは、こういった状況を個人投資家が感じるようになったことだろう。
PTSへの信用取引の解禁、そしてシェアの拡大、それに伴うSORなどの活用が個人に広がっていったことがその背景にある。
市場の分散が進んでいる状況(複数の市場で同一銘柄が同時に取引されている状況)では、その価格差が生じることもある。その価格差を利用して利益を上げるアービトラージ(裁定取引)。HFTは(それだけの設備投資をして)他の市場参加者より圧倒的に高速な取引環境を有している。彼らはそれを利用して、「レイテンシー・アービトラージ」を行っている。今、問題にされている「先回り」も以前から存在していた問題だ。
PTSの板を見てみるといい。多くの銘柄で最良気配には最小単位の指値が出ているはずだ。そのほとんどがHFTによるものとみていいだろうし、それが撒き餌でもあったりする(言い方悪いけど)。
SORが、個人投資家が多く活用する取引環境に広がりを見せたことで、一気にそれが問題視されているのが現在の状況なんだろう。
自分が部長をしていたディーリング部では、PTSとの直接接続を業界では真っ先に実施した。
東証の呼値適正化によってダメージを受けていたPTSに、証券業界に属する市場参加者として、何か出来ることはないか?を考えたうえでの選択だった。
その導入にあたったのは自分自身だ。
(外資系・大手)ブローカーを通じた取引も積極的に活用してきた。そのブローカーによるSORの提供とその利用もしてきた。
そしてディーラー達にそれらを活用してもらう中で、これらの問題は全て直面してきた。
「SORをオフにして欲しい」
一部のディーラーから頼まれたこともある。
一部のディーラーにとっては、メリットを感じる面もあった(ユニバースの違いもあり、それらの銘柄の流動性が十分ではなかったので、そこまで効果はなかったけれど)。
米国は、日本よりも市場の分散が10年以上も前から進んでいる。だからこそずいぶん前に「フラッシュ・ボーイズ」なども話題になった。今後、日本でも改めて市場の分散による問題がフォーカスされていくことになるのだろう。もう一度、「フラッシュ・ボーイズ」を読み直してみてもいいかもしれない(必ずしも公平な視点で書かれているともいいきれないけれど)。
PTSはまだいいけれど、ダークプールとかは、もっと透明性が低い。
これからそういった取引が広まれば広まるほど、問題も表面化していく。
ではPTSやダークプールはない方がいい?
それは違うと思う。
それは違うと思う。
適切な取引所間競争があり、市場参加者の声を市場運営側が聞こうとする姿勢を持ってくれることは重要だと思う。
Japannextが夜間取引できる環境を提供してくれたり、東証よりも小さい呼値での取引を提供したり、少しでも市場参加者に良い取引機会を提供しようとしてくれてきたことも忘れてはいけない。
そしてChi-Xなどでは、今話題になっているような問題に取り組むべく、HFTの影響を受けにくい環境作りもしてきている(Kai-Xの存在など)。
あるブローカーのダークプールではHFTを排除しようとしたり、PTSでも悪質とみられるHFTは排除する取り組みをしたりもしている。そういった問題への意識や取り組みはもうずいぶん前から行われているものだ。
ただPTSやダークプールの運営側の方、ブローカーの人がよく言うのは
「SORなどを利用することによる価格改善効果」
どうしても都合のいい面だけを訴えて、利用を増やそうとする(まぁ当たり前かもしれないけれど)。
レイテンシー・アービトラージや先回りのリスク。
都合の悪いリスクもしっかりと示したうえで、市場参加者側に選択肢を作るべきなんだと思う。
執行コストが単純に下がったか(本当に価格改善が実現できたか)、は全ての注文の執行が適切に行われたかどうかを評価しなければならない。
多くの場合、ごく一部でも東証のASK・BIDの範囲内で約定したら、「価格改善効果があった」としてしまう。
そうではなくその瞬間にあった東証の売り注文をしっかりと約定して、注文全体の執行コストが本当に下がったかどうかを客観的に評価する必要がある。
ブローカー(ダークプール)やPTS側の自身による計測だけでは信頼性に欠ける。そういった評価を第三者機関が行う場合もあったりする。
機関投資家なんかは、その執行コストが数bpsでも改善するだけで、一年間でのトータルコストの削減効果は金額ベースでは大きなものになる。なので、そういった調査などにもお金をかけられる。
そんな分析が出来ない個人投資家にとっては、せめてSORをOFFにするとか、回送する市場を選択できるようにするとか、自衛手段を講じる道を誠実に示すべきだろう。
勘違いしないで欲しいのは、PTSやダークプールが悪なのではない。
環境の優位性を利用して収益を上げようとするHFTですら、悪とはいえない。
それらが結託して、個人投資家から搾取しているような印象操作につなげてはいけない。
環境の優位性を利用して収益を上げようとするHFTですら、悪とはいえない。
それらが結託して、個人投資家から搾取しているような印象操作につなげてはいけない。
環境の差異がある以上、それはしかたのないこと。
はるか昔から、その環境の差異は常に存在していたのだから。
はるか昔から、その環境の差異は常に存在していたのだから。
ただその事実と実態を正直に示したうえで、そこにあるメリットばかりではなく、リスクもしっかりと説明し、理解してもらって上で使ってもらうべきなのだと思う。
そして、そのメリットとリスクを理解したうえで、メリットが多いと思う人はSORを使えばいいし、リスクが大きいと思う人は外せばいい。
そして、そのメリットとリスクを理解したうえで、メリットが多いと思う人はSORを使えばいいし、リスクが大きいと思う人は外せばいい。
「SOR使うとよりいい価格で執行できますよ」
とだけ言っておいて、実際に色んなリスクに直面すれば、市場参加者からみれば詐欺的と感じてもしまうだろう。
その不満や怒りが否定につながる。
SORにせよ、アルゴにせよ、メリットもあればデメリットもある。
しっかりとその両面を説明し、リスクも示したうえで、その利用については市場参加者(利用者)に委ねる。
しっかりとその両面を説明し、リスクも示したうえで、その利用については市場参加者(利用者)に委ねる。
その姿勢が重要なんだと思う。