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【マーケット】裁定売り残増加の背景(憶測w)

ちょっとTwitterでやり取りして気になったので…。

「裁定売り残」の増加が一部で話題になっているみたいですね。
でね、なんか「外資系の仕掛け的な…」という話が出ていたり、ちょっとなぁと思うので、自分なりに考えていたことを書いてみます。

正直、この件は実務・現場でやっている人に直接聞いた訳ではないので、自分の憶測というか、自分なりに納得できる理由としたらそこかなぁ…という記事です。
予めご了承ください…。



下のチャートは1993年からの裁定残高推移。
買い残…オレンジ
売り残…青
日経平均株価…グレー

確かに…2000年以前は裁定売り残高の積み上がりといえば、相場が下落した局面に増加する傾向があり、裁定買い残の減少と売り残の増加は「相場の底打ちサイン」的な見方をする人も多かった。
でもね、1990年代の裁定取引と、2000年(正確にはドイツ証券が急激に台頭してきた1998年以降かな)以降の裁定取引は一緒にしちゃダメだと思う。
そして日銀のETF買いが始まり、拡大していった時期以降は、また別物だと見た方がいい。
裁定残推移

日本でも先物取引が始まり、ソロモン・ブラザーズ証券が裁定取引などを活用して巨額の利益を上げた。当時のメンバーは現在でも様々なところで活躍されている方も多く、伝説的なチームだったと思う。

そうして始まった1990年代は、中小地場証券でもキャッシュ・アーブと呼ばれる裁定取引(現物バスケットと先物を売り買い組み合わせサヤを抜く取引)を活発にやっていた(実際、自分も若手の頃にアシスタント的に少しだけやらせてもらっていました)。

相場が急落するときに、機関投資家などからの先物へのヘッジ売りから「逆ザヤ」が広がると裁定(解消)売りをするチャンスもあった。株券を調達(借株)できる体制があるかないかの差もあって、中小地場証券では「裁定売り(現物を借株で調達して現物バスケット売り・先物買い)」まではなかなかできなかったけれど、(その時代でも)株券調達力のあるところであれば、裁定売りを作りにいけた。

裁定解消売り(裁定買いポジションの解消・反対売買)は、買い残がなければできないわけだし、相場が下落していくプロセスで市場参加者の先物ヘッジ売りなどから逆ザヤが長く続けば、裁定解消売りから買い残高減少になる。多くの裁定業者はここまで。でも、裁定ポジションの在庫がなくても、株券を借りてきてでも裁定売りを作りにもいける業者もあった。
そういった構図があったから、裁定買い残高の減少→売り残高の増加は相場の動きにある程度連動していた(赤丸で囲った部分)。

でも2011年以降の裁定売り残の増加はそうじゃない。
日経平均株価が上がり続けているのに売り残が増えているという現象。
日経平均株価が上がり続けているのに裁定解消売りで買い残が減っているという現象も同根。

その背景に何があるのか?

これは自分も調べたわけではないので完全に憶測だけれど、やはり日銀のETF買いに対応するための指数型バスケットの調達(買い)があるんじゃないかと思う。

ETFを組成するには、その裏付けとなる株券が必要になる。
日経平均型であれ、TOPIX型であれ、ETFを組成するためにバスケットで構成銘柄の株を調達する(買い)。
ブローカー側がバスケット売りで向かい、その価格変動リスクを抑えるためにブローカー自身は先物を買ってヘッジするために裁定売りの形になる(=裁定売り残の増加)。
もちろんブローカー側に「裁定買い残」があれば、その買いバスケットをETF組成のための現物買いにぶつける形で解消し、売りになっている先物を買い戻せばいい(構造的には裁定解消売り=裁定買い残の減少)。けど、裁定買い残自体がなければ、裁定売りという形で向かうことになるのだろう。

ピコピコッと裁定売り残が増えたりし始めている時期(2011~2012年)をみると、日銀のETF買いが開始された時期に重なる。そして、それが一番納得感のある「裁定売り残高が増加している理由」な気がする。

裁定残高の推移の要因がそうであったと考えるなら、裁定残高の推移で相場を語ること自体にはすでにあまり意味はないのだと思う。

実際のところは、大手や外資系ブローカーの現場やってる人じゃないと明確な答えは分からないだろうけど。

一つだけはっきりと言えることがある。
外資系証券や大手証券はボルカールールの影響もあって、自己勘定によるリスクを以前のように取れるわけではない。
「仕掛け的な」アービトラージなんて、それこそ何のためにそんなことやるのやら…(ミスプライスを見つけて、リスクを抑制して安定的なリターンを出す目的で行うのがアービトラージ戦略)。
基本的には、ブローカーは投資家の大きな注文などを受ける場合に、流動性を供給するために自己勘定で向かい、それをしっかりとヘッジしていく。
もちろんそこにはコミッションだったり、プラスアルファの収益源もあるからこそやれるんだけれど。

なんでもかんでも「仕掛け」で片づけるのは…ホントやめて欲しい。

1990年代の発想で、2011年以降の裁定売り残の増加を語るのは明らかにミス・リーディングを招きかねないと思う。
プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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