【回想録】苦行のとき
デリバティブに転向したとき、ポジション枠を1枚に減らされたことに加えて、もう一つ問題があった。
そのチームは数名で多様な売買をしていた。先物の売買、NTや市場間スプレッド、オプション、個別株、CBのボラティリティ・トレード、そして裁定取引。
そしてチーフはデリバティブを仕切っており、通常の売買に加えてヘッジ・トレードやオプション、裁定取引まですべてをやっていた。
当時は現在のようにシステムが何から何までやってくれるものではなかった。
先物の売買…チーフが発注、注文受付、約定通知がプリンタに上がってきて、それをアシスタントが読み上げ、伝票を起こす。
裁定取引…チーフが判断して「Go」サインを出す。アシスタントが発注。出来状況と価格を報告。
SIMEX(現SGX)…チーフが電話で向こうのラインハンドラー(電話でオーダーを受ける人)に口頭で発注。それをアシスタントが耳で聞いて打刻、伝票を起こす。
チーフはマーケットに集中し、その動きを受けてアシスタントが全てを行う。そのチームでは一時期女性のアシスタントをつけたことがあったが、チーフ曰く「使えない」とのことで、若手が交代でアシスタント業務を行うことになっていた。
当然、自分の売買は二の次になる。
しかもアシスタントについているときの緊張感は半端じゃない。
私語さえ許されない空気の中で、チーフの一挙手一投足に神経を研ぎ澄まさなければならない。
チーフがキーボードに手をかけた時には既に何をオーダーしようとしているかを読んで、伝票を準備し、その商品用のプリンタにいく準備ができていなければならなかった。
特にきつかったのはSIMEX。チーフが声が小さくボソッと注文出すもんだから聞き取れない。機嫌いい時だと、「いくらで何枚買った(売った)」とこっちに伝えてくれるが、そんなことは極まれ…。その時の他のポジションから類推して判断する。
対応間違えたり、遅くなったときのチーフのリアクション。
「チッ」
と舌打ち一つ…これがまたキツイんだ(-_-;)
当時、デリバティブ若手は二人でやっていた。
週の半分はアシスタント業務。残りが自分のトレードって感じ。
自分のトレードしているときも気が抜けない。
引け後に自分の取引履歴を全部まとめてチーフに提出。
ミーティングでそれをチェックされ、ダメ出しのオンパレード。
「なぜ買ったか?」「なぜ降りたか?」
を明確に説明できないと儲かっていても怒られる。
そのチーフの考え方では
売りと決めたら基本はその日一日売りをするべき。ドテンして買いにいくならそれだけの理由がなければならない。
これが徹底されていて
「何となく…」
は許されなかった。
正直、すごいきつかった。
でも面白かった。
自分にとってはすごい勉強になったし、色んなものを見てトレードする姿勢を叩き込んでもらった。これは自分が長く運用やってきたうえですごく大きな糧となっている。
アシスタントの時もそう。やっぱりチーフはそれだけの収益を上げていたし、色んな取引に精通していた。
それを横で見て、伝票起こしながら、チーフの考え方や何を見てやっているかを盗むには絶好の機会だった。
今でも尊敬する師匠でもあり、色々なことがあって離れたけれど、自分のディーラーとしての師はこの人だ。
ただ大きな問題があった…
自分がその状況では数字を伸ばしきれないこと。
週の半分はアシスタントやっていたため、自分の数字は作りにいけない。
しかもポジションはわずか1枚。
それでも月100万~200万は上げていたけど、とても生き残れる数字ではなかった。
ただ何も見えていない自分は一生懸命与えられた環境でやるしかなかった。
苦行の時はまだまだ続いた…。