先日のブログでヘッジファンドは「絶対収益(リターン)」を追求すると書きました。
個人的にはあまりこの「絶対」という言葉は誤解を招きかねないのであまり好きではないんですが…。
これは「絶対」儲かるよ、ということではありませんのでご注意ください。。。
人事評価などで出てくる「相対評価」と「絶対評価」と同じ考え方による言葉です。
例えば、ロングオンリー(買いだけ)のアクティブ投資信託であれば、ベンチマークを上回っていれば十分に優秀と評価できます。ベンチマークに対する「相対」評価でその実績を評価されるべきです。今のような下げ相場であれば、ベンチマークもマイナスですから、それよりもマイナス幅が少なければ十分優秀と言えるのです。
パッシブ(インデックス連動型)運用は、そのベンチマーク通りの動きを再現する目的のものなので、相対評価の対象でもないかもしれません。トラッキングエラーとかの技術的な問題や、コストによってベンチマークを劣後する可能性はありますが…。
一方、ベンチマークの動きとは関係なく、どんな相場でも収益(リターン)を出さなければいけないのがヘッジファンドの運用であり、「絶対収益(リターン)」と言われる所以です。もちろんそれでも負けることはあります。繰り返しますが「絶対」儲かるから「絶対収益」なわけではありません。そこを誤解されがちな言葉なんで、あんまり使いたくはないんですけど。。。
何かと比較して評価されるべき相対収益(相対評価)と、比較対象がなく常に利益を上げることが求められる絶対収益(絶対評価)という目的や特性の違いです。
ヘッジファンドは、相場全体の変動に左右されることのない運用、「絶対収益」を得るために様々な手法を駆使して相場と向き合うのです。アルファ(α)=超過リターンをどこに見出し、それを実現していくか。
そのためには「買い」だけでは実現できず、「売り」も組み合わせる必要がありますし、市場変動に柔軟に対応できるようにそれぞれの戦略を駆使しながら安定的な収益を上げることを目的としています。
広義のヘッジファンドとなると、実に様々な投資対象商品、手法が存在しています。
株のヘッジファンドではエクイティ・ロングショートが主流といっていいとは思いますが、グローバル・マクロ、イベント・ドリブンなど多様な手法が存在しています。CTAやHFTなども広い意味では絶対収益追求型という面で一緒でしょう。
他にもエンゲージメント、アクティビスト、PE(プライベート・エクイティ)…様々なストラテジーを持つファンドが存在しています。
海外投資家と話していると、日本ではそればかりと感じてしまう「ロングオンリー」も、こういった多様なストラテジーのうちの一つでしかないような印象を受けます。
どっちが優秀とか、どれが正しい、という話ではありません。
追求するリターンとリスクの特性が違うんです。
もちろんバブル的な相場展開になって、一方的な上げ相場になったときにはロングオンリーの方がいいパフォーマンスが出るはずです。ロングショートのヘッジファンドと違って「ショート」がないんですから。
絶対収益追求型のヘッジファンドに対して、「こんなに日経平均株価が上がっているのになんでたいして儲かっていないんだ?」と責めるのはちょっとズレてるということは理解して欲しいと思います。それでもリスクとリターンの最適化を目指してそれぞれのファンド運用者は全力を尽くしているはずです。
私自身の出身母体である「ディーリング(プロップ・トレーディング)」。
これも実は「絶対収益(リターン)」をより厳しく求められる業界です。
月次で常にプラスが求めれれるし、損失(リスク)管理も年次ではなく月次で行っている会社が多いと思います。
ヘッジファンド以上にその安定性が求められる。
昔、運用を自分でやったことがないディーリング部長とか上司にあたるとよく言われがちな一言。
「なんで日経平均がこんなに上がっているのに対して儲かっていないんだ(もしくは損してるんだ)?」
相場が下げた時に損をしていいのなら、そういうコメントもありなんですけどね。
それならロングオンリーでポジション取りますから…。
でもどんなときでも利益を求められるディーラー。どんな相場でも損したらクビという環境の中にいるんです。
地場証券のディーリングが短期売買に特化していった理由の一つにはそれもあります。
会社のリスク許容度が小さいから、大きなスパン(期間)での運用がやりづらく、ディーラー達の運用が日計りなどの短期運用主体になっていった。その日その日の相場状況に合わせて運用すれば、絶対収益を取りやすいはず…だったから。
これはアローヘッド稼働後、「HFT」にそこにあった収益機会・アルファを大きく奪い去られる形となってしまいましたけれど。
ちょっと脱線しました…。
「下げた時も儲けろ、上げた時はベンチマーク以上に儲けろ」…なんてかなり無茶な話です。
そういう人は自分が部下たちに求めているリターンとリスクの特性を理解できていないんでしょうね。もしそれが実現できている運用者がいたら、その運用者は相当優秀だと思います。絶対収益追求型の運用者が目指す究極がそこにあります。
運用を自分でやったことがないとはいえ、証券会社に長年いた年配の方ですらそうだったんですから、一般の投資家の方ではピンとこない方も少なくないかもしれません。
投資する側の方が、ファンドを選ぶとき
「損」だけを見て批判し、「利益」だけを見て評価する。
損するなんてヘタクソ。
ではなく、どういった「利益」を追求しているファンドなのかを見て欲しいと思います。
どんな運用手法をもったファンドなのか、リターンとリスクの特性はそれによって大きく変わってきます。
ロングオンリーのファンドに投資していて、下げ相場で損しただけで文句を言うのは無理があります。
買いだけでポジション構成して、市場全体が下がっているんですから。
一時期、損をしているように見えても、ベンチマークをしっかり上回る状況なら十分優秀です。
期間分散して投資タイミングやリスクの分散を図り、最終的にベンチマーク(インデックス)を上回ることができれば十分でしょう。
どういったリターンを求めているか、どういったリスクを許容するのか。
投資される際に、ご自身の求めるリスクとリターンとファンド(投資信託、ヘッジファンド含む)のそれが合致することが大切です。
我々、運用する側にとっては、投資家はお客様であり、最も大切な存在です。長くお付き合いできるように努めていきたいと思っています。だからこそ投資家のニーズと自分達の運用にミスマッチが生じないことが望ましいとも思っていますから。
自分がこれまで考え、取り組んできたこと。
先に書いたように、ディーリングとヘッジファンドって絶対収益追求という面では親和性がとても高いんです。
もちろん手法や環境による運用キャパシティやコスト耐性、様々な違いや課題はあります。
ディーリング部長として、そういった課題をクリアできる環境を再構築し、ヘッジファンド運用に適応しえる人材が育つ土台ができるまでには何年も要しました。
職業として「運用者」をやりたい。
そういった人材に未経験の状態から運用に挑戦させてあげられる場所としての「ディーリング」。ただそこにはキャパシティや様々な限界がある。そこでディーリングを若い人材を育成する場として活かし、その人材の成長と共に次のステージを作る。資産運用の担い手として次世代を育て続ける取り組み。これを実現していきたいと思い続けて「絶滅危惧種」と揶揄されながらも取り組んできました。
もちろんディーラーとして自己実現をしてくれる人材も大切です。
自分にとっては最も共感できる存在が彼らでもありますから。ただ組織の存在意義が問われる時代です。環境もネット証券の方が優位になっていると言っていいでしょう。ディーラーとしてだけの未来であれば、いずれ個人投資家になった方が彼らにとって望ましいときが来るかもしれない。だからこそ組織として従来の枠組みだけではない発想で運用者の未来を創る必要がある。
最近では、様々なヘッジファンドでもアナリストとしてジュニアを雇ったり、インターンで経験や学びの場を作ったりしているところも少しずつ増えてはいます。それでも非常に狭き門であり、どちらかといえば次世代の運用者がなかなか出てこなくなった現状への対応という側面が強い気もします。外部からの採用(要するに引き抜き)によって主に運用組織を構成しているようなマルチマネージャーのところも、新たな人材獲得がなかなか難しくなっているようですから。次世代が育つ場所があまりにもなくなってしまった…という現実も見なければなりません。
スポーツの世界でもそうだと思いますが、子供たちが小さな頃からそのスポーツを楽しみ、成長し、各プロチームもサテライトや若手育成のファームを持っている。吉本興業にはNSCがあり、劇団四季には研究所があり、若い次世代の人材を育成するプログラムがある。
少しでも裾野が広がることで、資産運用業界の頂点は高くなっていくのだと信じています。
その裾野を広げる取り組みを小さいながらも続けていきたいと思っています。