日本長期出張も後半戦に入っています。
コロナ禍で、なかなか難しいところもありますが、それでも本当に多くの方にお時間をいただき、沢山の方にお会いすることが出来ました。
ようやくミーティング、会食のスケジュールにも少し余裕が出てきてブログ書いたりする余裕も出てきています。
「ディーラーは絶滅危惧種」
「ディーリングはオワコン」
という印象を持たれている方が沢山いる現実にも直面しました。
その通りだと思います。何もしなければ…ですが。
2007年の頃だったと思います。
自分がまだ現役だった頃、所属している会社にディーリング部改革案としてA4でまぁまぁ分厚い資料を提出したことがあります。契約の自分から出されたものなので、あんまりちゃんと取り合ってはもらえませんでしたが…。
欧米市場においてはすでにHFTのマーケットシェアが拡大しており、ある意味市場を牛耳っているような状態になりつつありました。
日本市場はというと、彼らはいない。なぜ?
参入障壁として、取引所のシステムがあまりにも遅かったから…。機械受注統計が出る度に数分遅延するようなシステムでは、ミリ秒、マイクロ秒を争う彼らのストラテジーはワークしません。
その頃のディーラーは、言い方は悪いですが、ドンくさい市場のシステムに守られていただけでした。
ちょうんまげ、刀で踏ん反りかえっていられる時代はもうすぐ終わる…それがその頃自分が抱いていた危機感でした。
そしてそのときは訪れました。
2010年のアローヘッド稼働。
これによって参入障壁がなくなったため、多くのHFTが日本市場に入ってきました。世界的な市場間競争において、取引所が取り組んだこのシステム強化は当然のことですし、時代の変化の中では必然といっていいと思います。
それに対して反発したり、批判したりしているだけでは生き残れない。にもかかわらず、多くのディーリング業界に属する人たちは自らが変わる努力をせず、従来の一カイ二ヤリ、日計りに依存したまま不満ばかりをぶちまける。
過去の歴史を振り返ってみても、時代の変化に適応することが出来ない存在は淘汰される。
時代の変化の中でただそれを批判し、淘汰される側になるのか。
それとも自ら変化し、必要とされる存在になれるのか。
自分が必要だと思っていたのは後者です。
ディーリングは変わる必要がある。
2011年に山和証券に採用してもらって以降、運用管理の体制を再構築し、管理体制を変え、多様なストラテジーを許容できる体制へと段階的に変えていきました。
そして多様な手法を持つディーラーが増え、おそらくその多様性においては業界随一といっていいぐらい面白いディーラー達が揃ってくれていると思います。
一カイ二ヤリ、日計りで今でも稼げているディーラーもいます。それはそれですごいことです。以前のような隙間だらけのマーケットでならいざ知らず、相当なセンスがなければ今の時代に安定して勝ち続けることは困難ですから。
一方で、その環境を利用して、派生商品中心の多様な運用を行うディーラーや、ロングショートなどの中長期運用を行えるディーラーも増えていきました。
それを支えてくれた管理のスタッフ達にも感謝です。次から次に新しいこと言い出す上司の下で、みんなが踏ん張ってくれたからこそ実現できたことが沢山あります。
ディーリング業界は、失われてはいけない場所だと思っています。
そのためにも自らが変化していかなければならない。
2008年のリーマンショック。
このときのボルカールールなどの影響で、グローバルプレーヤーである外資系証券や大手証券でのディーリング(プロップ・トレーディング)は大きく変わりました。ファシリテーション中心になり、純粋に自身の相場観や分析に基づくマーケットリスクを取りにいける環境はほとんど失われてしまいました。
それまでは外資系のプロップ出身のヘッジファンドのPMも結構いたんですけどね。友人・知人にも外資のプロップ、地場のディーリング出身のトレーディング・オリエンテッドのファンドマネージャーは沢山いました。
しかし、そういったトレーディングを原点とする運用者が育つ環境が失われていった結果、日本株のヘッジファンド業界においてもリサーチ・ドリブンと言われるアナリスト出身のPMばかりになっていきました。
リアルマネー、リアルマーケットでリスクと向き合い、運用を経験し、その経験を通じて成長していく場所が外資系や大手、地場においても失われていったのです。
地場証券のディーリング。
今となってはあまり聞こえのいい存在ではないかもしれません。
絶滅危惧種やオワコンと揶揄される存在になってしまいましたから。
でも運用を志すお金も経験もない若者に、リスクを預け、運用を経験させてやることが出来る場所として、失われていい場所だとは思っていません。
今の日本にはそういった場所があまりにも少ない。
多くの若者が目指す先が個人投資家になっている昨今。
優秀で、可能性のある人材は個人投資家にも沢山います。
そういった人材が、いつか資産運用の担い手として日本の持つ資源である2000兆円もの個人金融資産と結びついたとき、日本はまだまだ世界で戦っていける潜在的な力を持っていると信じています。
ディーリング業界もそうでしたが、ヘッジファンド業界も引き抜きが横行しています。
それも一つのビジネスです。でもそれだけでは業界は廃れます。
それぞれの組織・会社が人材を育てていくことを真剣に取り組まなければ。
新しい若いタレントが次々と出てくる業界にしていかなければ。スポーツでもそうですが、新たなスターが次々出てくるからこそワクワク出来るし、業界としての魅力も高まる。
地場証券のディーリング。
ここで運用を志す若い人材、未経験者にもチャンスを与え、リアル・マネー、リアル・マーケットで運用を経験させ、運用者として育成し、その成長とともにビジネスを発展させていくこと。それをまた次の世代の育成に再投資していく。
持続可能な形で運用者を育て続ける取り組みこそ、ボルカールールなどの規制から免れるような我々が担うべき役割だと思っています。
そしてそこから新たな資産運用の担い手を世に送り出し続けること。
そのためのヘッジファンド設立であり、PM育成コースのスタートでもあります。
絶滅危惧種の中にも、こんな取り組みをしているところがあるのだということを知ってもらえたらと思います。
まだまだちっぽけな存在かもしれません。
でもここには若く可能性がある人材が何人もいます。
彼らがそれぞれの目標や夢に向かって成長していく姿が原動力です。
来月から、PM育成コースがスタートします。
彼らの数年後が楽しみです。