先週は東京出張でした。
沢山のミーティング、やらなければならないことに追われて、人と話してはタクシーで移動し、その間にメールや電話をして、またミーティング…。
かなり忙しく生きてきた方だと思うけれど、人生最高に忙しい一週間だった気がします。
そして初めてお会いする方も沢山いらっしゃいました。
ファンド・ビジネスの世界での知己が増え、多くのことを学んでいく中で、自分が必要だと感じてきたこと。その必要性を改めて認識しています。
プロの運用者としての「はじめの一歩」。
それがあまりにも不足している。
かつては外資系証券や大手証券、銀行系証券などでも「プロップ」と呼ばれる自己売買部門があり、そこには若い運用者が育つ土壌がありました。
それがボルカー・ルール、ドット・フランク法の影響もあって、ほぼなくなってしまっている。
自己売買部門という意味では、地場証券のディーリング、商社系のプロップファームなどもあるけれど、どちらもシュリンクし続けてしまい、最盛期と比べると10分の1といっていい規模になってしまっている。
まだ学生の若い人たちが、欧米の(本物の)伝説的なファンド・マネージャーに憧れてその道を目指したいと願ったとき。
どこにいけば、どういう道を辿れば、その道が繋がっていくのかが見えない。
そして多くの若い人たちが憧れるのは、著名個人投資家の人たちだ。
それはそれで素晴らしいことだし、否定されるようなことではない。
でも投資家の資金を受託する「プロの運用者」が育つことこそが、日本の金融や資産運用ビジネスを活性化させるのだろうし、発展させていくはずだと信じている。
日本にはお金もあるし、人材もいる。テクノロジーもあるし、運用対象となる市場の規模も大きい。
にも関わらず、日本の運用者が育つ土壌は細ってしまっている。
アナリストなどから、ファンドマネージャーへと転身するケースも多い。
リサーチ力をベースとした運用なら、それは確かに合理的な道筋かもしれない。
でも運用はリサーチだけではなく、様々な要素があってこそという面もある。
運用者の多様性という意味では、様々な角度でその道にトライできる環境が必要なんだと思う。
米系などの大手運用会社では、優秀な運用者を探し、スカウトする。
10年ぐらい前、少しだけ自分もお話をいただいたことがある。
スケールの違いとストラテジーの問題から、そこは自分には難しかった。
その時期に別に声をかけていただいたファミリーオフィス系のところでトライしたけれど。
ヘッジファンド間でも引き抜きは絶えず行われ、スピンアウト(独立)という形で自分のファンドを立ち上げる動きもある。
ただそれだけでは、次世代の、まだ見ぬ未来の運用者達を育てる「土壌」は細る一方だ。
未経験者にいきなり投資家の資金を預けることはできない。
それを許容してくれる投資家がいるなら話は別だけれど。
それが出来るのは自己資金(プロップ)による運用が出来る組織だ。
そしてそこで育った者が、引き抜かれて外に出てしまえば、その組織は弱体化する。
その姿を自分はいくつか見てきたから。
自分がかつて所属していたディーリング部はもうない。
業界屈指と言われる強い組織だった。
今でもヘッジファンド業界で活躍する人材も擁していた。
しかし、人が抜けていくことで組織が弱体化していってしまった。
育った者の可能性を最大化しつつ、その幸せを実現する。
それが出来ない組織であれば、いずれその人材を失うことになる。
でもその人材が組織を引っ張ってくれることで、組織はより強固になり、発展していくことが出来る。
それがまだ見ぬ未来の運用者がチャレンジできる場所を提供するためのバッファにもなっていく。
「いい運用者いない?」
ではなく
「いい運用者をゼロから育てていく」
そんな取り組みをやっていきたいと思って、今の取り組みをしている。
未来の運用者が、生まれて育つ場所を守り、発展させていくこと。
これがこの10年ほど、自分が願い続けてきたことだ。
今回の忙しい出張の合間に古巣を訪ねた。
そこには面接しか出来なかった未経験者が何人かいた。
運用を始めたばかりの者。
まだ実際の運用を始める前段階の者。
一人一人が可能性の塊。
自分の可能性を信じて、未来を夢見て頑張って欲しい。
その未来の舞台を作るために、自分も懸命に頑張るから。