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【ビジネス】GMS Forum 2015

7月2日~3日にかけて開催される「GMS Forum 2015」。
自分も講演させていただく予定です。

http://goodway.co.jp/fip/htdocs/event/gms2015/program

知っている方も沢山講演されるようなので自分もいち参加者としてお話を聞きたいぐらいです。
自分のコマも途中経過でもう100名ほどに達しているようなので、ご都合つく方はぜひ。

【ビジネス】オプション取引について

さてとりあえずは社内用のオプションのテスト問題全10問を作ってみた。
オプションを適切に利用してもらうためには、誰にでも安易にやらせるわけにはいかない。

過去オプションで巨額損失を出した例はいくつもある。
会社が潰れたり、潰れかけたり、個人が返済不能な借金背負ったり、個人の損失を証券会社が被る羽目になったり。
自分が見てきた中では

1990年代
【ベアリングス・ショック】
ニック・リーソンという一人のトレーダーが起こした巨額損失。シンガポール取引所の日経平均先物の大量の買いポジションが主因ではあったが、実は日銭を得るためにオプションの売りを大量に行っていた。そのために相場が大きく下がるのを食い止めようと先物を買い続けて巨額損失を出している。そして英国の名門投資銀行であったベアリングスはアジアのたった一人のトレーダーのために破たんに追い込まれた。

【勧角証券】
当時、日経平均オプションの売り建玉はほとんど勧角証券が売り筆頭になっていた。結果として巨額の損失が出て会社の経営危機を招き、第一勧銀から増資による救済支援を受けるに至っている。ディーリング部はそれが原因で実質的な廃部に追い込まれ、経営にも銀行出身者が大きな影響を与えるようになった。当時の実行者も知っている方だが、「一度億越えの月間利益を出してしまうと周囲の期待やプレッシャーもあって、危険なのは分かっていたが続けざるをえなかった」という話をされた。

2000年代
【盆栽名人】
当時話題となったファンド。オプションの売りを基本戦略とし、珍しく相場上昇局面で巨額の損失を出して基準価格が3分の1程度まで急低下した。相場急落時はポートフォリオに対するヘッジ・ニーズの高まりなどでボラティリティが急上昇しやすいため、ベガ・リスクが顕在化して損失額が拡大する傾向が強いが、ベガの影響が限定的な上昇局面で大きな損失を出した事例。典型的なガンマ・リスク軽視によるもの。
同じ時期にタイコム証券の証拠金不足懸念などから、大阪証券取引所の証拠金制度が見直されるなど、この2005年~2006年にかけての株ブームの時期あたりからガンマ・リスクを理解していないオプション・トレーダーや投資家が急増した印象が強い。

2010年代
【東日本大震災による個人投資家の巨額損失】
「想定外の事態」であることは確かだった。巨大地震、巨大津波、そして原発の破壊と放射能リスク。特に地震後の放射能リスクの高まりで一時的に相場は「壊れた(クラッシュ)」。そしてディープ・アウト(原資産の価格から遠く離れた権利行使価格)のオプションを大量に売っていた個人投資家を直撃した。年収数百万の人が何億円もの損失を出して支払不能に陥る事例が多発。そういった個人投資家を抱えていたネット証券の多くが数十億円もの損失を被る事態となった。ひまわり証券は証券業務から撤退に追い込まれ、他のネット証券でもオプションの売りを禁止したり、枚数制限を設けるなどして「オプションの売りは危険」という偏った認識が定着してしまう原因ともなった。


それ以外にもオプションによる大きな損失が問題になった事例はいくつもある。オプションの巨額損失に通じている怖さは「個人が引き起こした巨額損失が会社を追い込む事態になる」ほどの損失につながることだ。

そしてそのほとんどすべてが「ガンマ・リスク」への理解が低すぎたことが背景にある。
特に2000年代後半あたりから、「オプションは売っておけば儲かる」「権利行使価格が遠いところなら安全」とあまりにも理解の低い話を投資家に対しても平気でする人が増えた印象を持っている。そしてそれはオプションをまともに扱ってきた人から見れば許しがたいレベルでのミス・リーディングだった。

オプションは本来素晴らしい商品だ。
自分のストラテジーを自由に表現できる。上がってもよし、下がってもよし、動かなくてもよし、乱高下してもよし。ただその根底にはしっかりとした相場観と、予想外の動きをしたときのヘッジ・プランをどれだけ組み立てておけるかが重要になる。
いざというときを想定し、どれだけシミュレーションを重ねていけるか。

最低限、オプションのGreeksの計算やプライシングぐらいはExcelで自前でできるぐらいの知識は持っておいたほうがいい。ブラックショールズ、ハルホワイト、二項分布などの計算モデルを理解していなくてもいい。それをExcelでできるようにするノウハウなんて20年以上も前から出版物やネットの世界には転がっている。

先物や個別株ならいくらまで下がるといくらぐらいヤラれる(損失が出る)かは容易に想像できる。でも複合的に組成したオプションのポジションはなかなか想像しづらいものだ。
日経平均株価がいくらになったとき、自分のポジションがどういった損益になるのか?そのプロセスでポジションをどう動かせばいいのかを予め理解しておくことは自分を守るためには必要なことだ。

先物や個別株でのポジションと同じように、そのポジションが内包しているリスクをしっかりと理解できるかどうか。
そこがしっかりと出来ていれば、おそらく「想定外の巨額損失」は最低限に留めることができるだろう。

確かに難しい商品だ。
取扱い注意だし、使いこなすのは簡単ではない。
上がるか下がるかだけの世界ではなく、もっと立体的なストラテジーを作り上げることができる商品なのだから。
使いこなすためには「取扱説明書」をしっかりと読み理解すること。そして万が一を常に想像しておくこと。

自分のスタートはオプション・ディーラーだった。
阪神淡路大震災のときも、その直後のベアリングス・ショックのときも、ショート・ガンマのポジションを抱えていながらも利益につなげてExitできた。そのときに上司がかけてくれた褒め言葉は当時の自分にとっては宝物だった。

「そのときどうするか?」
を判断するためには
「そのときどうなっているか?」
を予め想像しておく必要がある。
そのときがきて、引き起こされた現実に思考停止になり、神に祈るしかない事態に陥ったとすれば、それは自業自得であり、想像力の欠如、知識不足が引き起こした事態だ。
「相場変動のせいでやられた」のではなく、「相場変動を見誤り、そのときの対処すら考えていなかった」からそうなったのだと理解するべきだろう。

オプションが危険なのではない。
オプションを理解せずに運用するのが危険なのだ。

【ビジネス】HFTについての取材

最近、少し落ち着いてきたと思ったら先日のNHKで変な時間に特集やっていた。

HFTを一括りにして「悪」と言い切ってしまうことはしてはいけないし、大きな間違いだ。それは理解不足、無知をさらけ出しているに過ぎない。

せめてHFTが主に行っている様々なストラテジーをある程度は理解したうえで考えるべきだ。フラッシュボーイズで主に問題視されたのは「先回り」。その主なストラテジーがレイテンシー・アービトラージといわれる手法。

すごく端的な説明になるけど、ある市場で大きな買い(売り)注文を察知したら同じ銘柄の他の市場の売り(買い)注文を先回りして買ってしまうやり方。彼らはそのためにそこら中の市場で撒き餌をしている(ごく小さな注文をばらまいている)。それはより高速な環境(ミリ秒からマイクロ秒までの世界)を持つHFTがそのレイテンシー・執行速度の格差を利用して行うもので、彼らの代表的なストラテジーの一つだ。

ただ数十のATS(日本でいうところのPTS)や取引所があり、ITSによる市場間回送を実現している全米市場システム(NMS)が機能している米国と、わずか二つのPTSとわずかな流動性しかないダークプール、そして出来高の90%以上がJPX(日本取引所)での約定に集中している日本とはそもそもの前提条件が違う。
そもそもレイテンシー・アービトラージの機会自体がかなり日本では少ないといえる。取引所のサーバーなどの物理的距離とその通信に要する時間格差も広い国土を持つ米国と比べたらごくわずかなものだ。

それでも確かに日本でもレイテンシーアービトラージは行われている。ゼロではないし、部下たちの売買を見守る中で、おそらくそれをやられたのだろうと感じる場面も何度か見てきた。
やられた側から見ればとても不快なのは確かだ。自分が買えていたはずの注文を他が先回りしてとられてしまうのだから。ズルいと感じてしまう気持ちも分からないでもない。やられる側の代表的な存在である地場ディーリングの部長である自分からみても嫌なものではある。

それでもレイテンシーアービトラージが是か非かは意見が分かれるところだろう。個人的には「しゃあないよなぁ」と思ってる。

だいぶ昔のこと。
取引所に立会場があり、場立ちがいた頃の話。
自分は研修でわずか二週間しかいなかったけれど、当時の場立ちの人達は大手証券のブースをよく見ていた。
市場への影響が大きい大口注文が入ることが多いから。
そして大手証券のブースからのハンドサインを見て大きな注文が入ると我先にとその銘柄に殺到して先回りしようとしていた。
これってアナログな世界だけれど、立派なレイテンシーアービトラージだと思う。
足の速いやつ、身体の大きいやつ、仲介業者と仲良いやつ。
そんな「環境優位性」が有効だった時代の話だ。

環境格差はどんな時代にもあった。
電話が発明されたとき、電話を持つ人はより速く優位な注文執行ができたのと同じだ。
同じ場所でランチをしながら「この銘柄は上がると思うんだよな。」と雑談していて、電話を持っている人はその銘柄への買い注文を相手より「先回り」して出せた。

環境優位性をズルいというのは感情としては理解できるが、それをHFT=悪とすりかえることだけはしてはいけない。
そもそも全ての市場参加者に完全に公平な環境を与えることは現実的には不可能なのだから。

もちろんレイテンシーアービトラージをされないような工夫をこちらとしてもしなければならない。
色んなアイデアを出しながら、最小限のコストでそのリスクを最小化していく。
それが部下たちを守るために自分がするべき戦いだ。

フラッシュ・クラッシュをみても分かるようにHFTに依存しきった市場は脆弱で危険だと思うが(当時の米国市場でのHFTの売買シェアは70%近くに達していた)、けっしてHFTを排除することが正しい道ではない。

HFTによって生じた様々な問題。
・取消比率の大幅な上昇(板の質の劣化)
・(板が消えることに対する)市場への不信感
こういったものをどう解消していくのか、どう歯止めをかけていくのかは論じる必要がある。

そしてHFTの中にも悪質なものはほぼ間違いなく存在する。
人間にもちゃんとしたやつもいれば悪さをするやつもいるのと同じように。HFTのストラテジーやプログラムは人間がコーディングしたものなのだから「悪意」は存在しえる。

最大の問題は、彼らの売買の全容を把握できる人が日本には誰もいないことだ。
やっている彼ら自身以外には。
米国では大口投資家を追跡できる環境がある。事後的にも発注・取消・訂正・約定を網羅してその売買の全容を把握することができる。

http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-477014.html

欧州はそういったものを持たないが、過剰な取消に対して課税するなどの規制強化を進めた。そして一定の抑止力を持つためにHFTを行う業者には当局への届出・登録などを義務付けている国もある。
日本はまだ議論が始まったばかり。
何も形にはなっていないし、取引所が課しているアクセス料はあまり意味をなしていない。

今後、人間が目視で認知することすら困難な速度で売買を行う彼らをどう監督し、悪質なものをどう発見し、排除していくのか?見つけたとしてもその意図を立証することはとても困難なはずだ。
人間が手動で行うものは容易に発見し、把握できるから捕まるが、彼らが同じことをしても全容を把握できないから捕まらない。
そんな風に感じている市場参加者は少なくない。
その不公平感こそがHFT=悪という見方が増えていく背景にあるように思う。

取引所や有識者の方も、「HFTは問題ない」とか「HFTはこういう効果をもっていて市場に貢献している」とか擁護するような論文を書くばかりではなく、しっかりと問題点や課題を論じてほしいと思う。

HFTが悪であるとか、問題ないとか、そんな議論はあまり意味を持たない。
健全な市場の発展を守るために、テクノロジーを駆使する彼らの存在は受け入れつつも、すでに当局や取引所の管理監督能力を上回る膨大な発注・取消・訂正・約定を複数の市場(一部は国をまたいで)を同時多発的に行う彼らの売買の健全性をどう維持させていくのか?
そして市場全体の多様性をどう守っていくか?
そういったことこそ議論されるべきだと思う。
プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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