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【ビジネス】ディーラーの覚悟

ディーラーという仕事は決して楽なものではない。

正社員もいるけれど、業界的に主流になっているのは契約ディーラー。

ほとんどの場合、年間契約を結び、実績が悪ければ契約は更新されず事実上の解雇となる。最短なら3ヵ月で結果を出さなければクビだ。




2000年前後からディーラーの成功報酬が高騰し、既存の正社員の給与形態との整合性が取れなくなっていったために契約化が進んだ。契約であり、雇用が不安定な代わりに高い成功報酬を正当化したという形だ。




自分はその頃まだ若手だった。

チーム体制でやっていて、そのときのチーフが「来期からは契約にならない限り運用はさせない」と突然告げられて選択の余地もないままに契約にさせられた。そのときの成功報酬はわずか2%。同業他社の友人から「それでは奴隷ですよ」と揶揄された(笑)




その後もずっと契約ディーラーとして戦い、実績が伸びるに従い報酬率もどんどん上昇していった。

ある年には会社から提示された報酬率が高過ぎるといって自ら下げてもらったことすらある。損失補填義務のないディーラーに対しての報酬率としては明らかに高過ぎると思ったからだ。




そして外資系のプロップトレーダー(国内証券でいうところのディーラー)やヘッジファンドの友人が増えていく中で、国内中小証券ディーラーの報酬率の異常な高さを思い知る。外資系プロップの報酬率は10%にもとどかない。ヘッジファンドでも20%がいいところで個々のファンドマネージャーレベルになると一桁であることも少なくない。

中小証券ディーラーのそれは30%~50%超。

世界的にみて異常な高さだ。

証券外務員(営業)だって高いという人もいるが、彼らの仕事にはマイナスはない。




自分は一時期契約でありながらマネジメント補佐をしていた時期がある。

そのときに自分の知らないところでとんでもない案件が進められて会社が大きな損を出した。その案件を何故話してくれなかったのかと厳しく問い詰めた。「工藤君にはマネジメントもやってもらっているが契約だから話すことではなかった」と言われた。その日にその会社を辞め、その後はマネジメントにかかわる仕事をするのなら成功報酬は低くてもいいからと正社員として働いてきた。




今の会社に入るときも「自分に求めるのがプレーヤーとしてだけなら契約でいいし、マネジメントや人材育成も求めるのなら正社員でもいい。判断はお任せします。」と社長にお伝えし、その結果正社員として入社した。そのときの報酬率もあえて自分からお願いして提示よりも下げてもらった。

明らかに自分にとっては損な話だけれど、中小証券ディーリングのビジネスモデルの再構築をしなければ生き残れないと感じている自分が自らの報酬率にこだわっていたのでは筋が通らないと考えたからだ。




でも多くのディーラーが今の成功報酬になんの疑問も抱くことはなくもらっている。そしてその高い報酬を望んで契約ディーラーという選択をしている。

それはそれで構わない。

ただそこには覚悟が必要。

雇用を失い不安になる気持ちは痛いほどわかる。

でもその道を選んだのも自分。

そして結果が出せなかったのも自分。

せめてそこにはしっかりと向き合ってほしい。




全員が高い報酬率のまま幸せであり、会社も儲かるのならそれが一番いい。

でもそんな夢のようなことは続かない。

一人残らず守りたい。

力になってやりたい。

心の底からそう思う。

これからは組織という船を守ることが自分の仕事になる。

もっと辛い決断もしていかなければならないのだろう。

相場で戦う苦しさや辛さは自分だけが傷つくことだからなんともなかった(広義では会社も傷つくけど…)。

きっと人に痛みや辛さを強いる決断は自分には一番苦手なことなのかもしれない。

オレちゃんとやっていけるかな…(^_^;)

【市場雑感】セレクト・バンテイジ社について

先日、金融庁から課徴金6万円の処分を受けたセレクト・バンテイジ社について。




過去に同社(事業譲渡前のスイフト社)はイギリスで約13億円の制裁金を課されている。「見せ玉(大きな買い(または売り)注文を出して市場に買い(売り)が優勢のように見せかけて相場操縦を行う行為)」による相場操縦行為での制裁金だ。




同社の陣容は『中米コスタリカに本拠地を置き、中国、欧州、南米に230のオフィスを構え、約2800人のデイトレーダーを雇って、各国の証券取引所に注文を出す……。』だそうだ。

今回の処分対象となった売買は酉島製作所とホシザキ電機の2銘柄。『平成24年4月12日から同月24日までの間、72の取引サイクル』とのことだ。




海外で10億円を超える制裁金を受けている組織。システムを使った取引を主としているとの話だ。ちょっと考えれば相場操縦行為の対象となった銘柄がこの2銘柄、この期間に限られているわけがない。規模からいっても、他国の事例からいっても。


海外で10億円超の制裁金を課されながら、日本ではわずか6万円。

しっかりと全容を洗い出し、二度とこの国の市場でそういったことが出来ないレベルでの制裁をしっかりと課して欲しいと思う。




個人投資家やディーラーは『手動』だから簡単に捕まえられる。

システム取引は広範囲かつ高速であり、膨大なデータ量かつ全容を解明するのが困難だから捕まらない…では話にならない。

そういった悪質なところをしっかりと排除できないと健全な市場は守っていけない。

そういったところを野放しにしてきたから『HFTは悪だ』とか『アルゴ=見せ玉の温床』みたいな見方が増えてしまった。




取引所の発注システムでは『残数量取消条件(Immediate or Cancel = Fill And Kill) 即時約定できる数量を全て消化したら、残数量は自動的に取り消されます。』『全量執行条件(Complete Volume = Fill Or Kill)』などの条件付の発注が出来る。

要するに注文入れて出来なければ残りは取り消すということが自動かつ正当な発注機能として認められている。




一方で、人間が手動で発注して空振りし、放っておくのは怖いからすぐに取り消すとどうなるか? 一部の証券会社の自己売買部門ではそれだけで注意・処分を行っているところもある。自己売買部門はそれほどまでに厳しい条件下(取消しすらままならない)で戦うことを求められている。

HFTをはじめとしたシステム取引についてはどこまでその監督・監視ができているのだろうか?




外形的要件、頻度などからしっかりと悪質かどうかを見極めなければいけない。しかし、その基準の明確化は簡単ではない。証券会社側のコンプライアンスの考え方一つで恐ろしいほどのギャップが生じている。そして容易に全容が把握できる手動売買と膨大な量の売買を超高速で行うシステム売買とで同じ基準で監督・監視が出来ているとは思えない。




個人投資家にもディーラーにも悪質な者はいる。

プログラムにも悪質なモノはある(ソースコードの提出ですら米国では議論になった)。

公平かつ公正な市場をいかに守っていくか。

欧米で10億円超の制裁金を課されたプロップファームに対して、日本は6万円の課徴金。

これではやったもの勝ち。

そういった悪質なモノ達が『美味しい市場』と感じることがないように、この国の市場を健全なものにしていって欲しいと願う。




セレクト・バンテイジ社に関する記事

http://diamond.jp/articles/-/49943


金融庁の勧告内容

http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2014/2014/20140218-1.htm


実際に行った売買

http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2014/2014/20140218-1/01.pdf

プロフィール

tetsu219

Author:tetsu219
元証券ディーラーです。
二十数年ディーラーやって、シンガポールにも一時期行ってヘッジファンドを立ち上げてみたりと色々やってきて、とある証券会社でディーリング部長になり、今はシンガポールでヘッジファンドの設立・経営をやっています。

基本仕事ネタです。
更新は気が向いたときだけ(^^;
でもこのブログを通じて運用を志す若い世代の人たちに何か伝えられること、その一助になればと思っています。

初期は限定記事にしていましたが、今は開き直って全部公開にしてますのでお気軽に(笑)

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