【ビジネス】呼値変更に思う
米証券取引所、株式の呼び値単位変更で試験準備-関係者 - Bloomberg http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MODBOK6S972J01.html
2013年6月14日のこの記事を読んだ人、記憶している人は市場関係者の中にどれぐらいいるのだろう?
自分もその後、これがどうなったのかは恥ずかしながらフォローは出来ていない。
そして下記がそのわずか一ヶ月ほど前の2013年5月14日の記事だ。
東証:呼値単位適正化を来年1月から3段階実施、1円以下も
http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MMS3X96KLVRP01.html
米国では1セント刻みですら小さ過ぎるのではないかと議論され、試験的に一部の銘柄で呼値を拡大する案が検討されている。そしてほぼ同じ時期に日本取引所では呼値を縮小させることを決めている。
ちょっと冷静に考えてみて欲しい。
1セント≒1円(1ドル≒100円)
それでも小さいと拡大させようとしていた米国市場。
にも関わらず日本はさらにその10分の1の0.1円まで踏み込もうとしている。
取引所の大義名分は
『世界的にみてPTS(私設取引システム)と取引所の呼値が違う国はない。』
確かにそれまで日本市場においてはPTSが0.1円まで踏み込んでおり、それによる価格改善効果がPTSの売り文句の一つだった。要するに上の値段を買ったり、下の値段を売ったりしなくてもその間にある小数点のところで一定数量約定することによる価格優位性をアピールしていたのは確かだ。
それも一つの要因としてPTSのシェアが拡大しつつあった中で、取引所が市場間競争を考えて前述の主張をすることも理解はできる。
ただそれが本当に多くの市場参加者のためになるのだろうか?
そこまで細かい呼値は市場参加者の負担を増し、目視での売買を困難にしていく。そして板(注文状況を示す画面)の意味を失わせていく。
恐らく過度に進んだ高速化、必要以上の呼値縮小はマーケットデータの飛躍的増大につながり、市場参加者へのシステム投資の負荷を増大させる。
さらに手動による執行が困難になるためアルゴ(コンピュータによる自動執行プログラム)への依存度が増えていく。
さらに一つの価格における注文数量は劇的に減るはずだ(10分の1刻みにすれば当然そうなる)。
結果、大口の注文をさばくとき、板上にさらしづらくなり、目に見える板の注文数量はより減少しかねない。
日本の市場は何を目指しているのだろうか?
これが市場参加者にとって本当に意義のある改正といえるのだろうか?
フェーズ3はフェーズ2の反応をみて決めるそうだが、恐らくフェーズ2は手動で短期売買を行う市場参加者には致命的な影響を与えるだろう。
そういった短期運用者のフローは呼値が縮小された銘柄を避けていく可能性が高い。
実際に数十名のディーラーと面談した中で、何人かからはそういった銘柄はやらないようにしているとの声もあった。
HFTのように十分なシステム投資ができる市場参加者ばかりではない。
さらにそれだけ投資負担が増える一方で呼値縮小によるスプレッドが縮まればHFTですら投資の割には儲からないと考えるところも出てくるかもしれない。
そしてそのシステム投資に対応出来ない多くの市場参加者にとって過剰な高速化や必要以上の呼値縮小は負担増に過ぎない。
もちろんそれを活かすことが出来る参加者もいるだろう。
その影響に対応できる運用者もいるだろう。
ただ恐らくは多くの短期運用者がそうではないはずだ。
システム取引による無機的な市場ではなく、多様な市場参加者によって価格形成されるからこそ市場は適正水準を見出せる。
HFTは基本的に日経平均がいくらだなんて気にもしない。
彼らは非常に合理的な存在ではあるが、彼らだけでは市場はまともに成り立ちはしない。
市場参加者の多様性を保持することはとても重要だと思う。
欧米ではHFTのシェアは減少傾向にある。
その背景には規制や監視の強化がある。
そして日本でのHFTのシェアは増大の一途だ。
いずれ欧米市場以上に日本市場でのHFTのシェアが高まるときが来るかもしれない。
ただそれが本当に健全なマーケットといえるのだろうか?
今一度、そのあたりを考えるべきときのように思う。